この世界に生まれて約半年、首もとっくにすわった蓮華です。
やっっっと、この家族にも慣れてきた処。
なのだが、今私はケーブルなどが張り巡る椅子に手足を固定された状態だったりする。

「ハスカちゃん、今日から頑張りましょうね!」

「あーぃ?(何でこんなことに?)」

出来事は数分前に遡る。
その時私はゴロゴロと高級そうな絨毯をローリングっていた。
生後1月の頃は、やっと見えた景色(この家は豪華で広い。歩けるようになったら探索しなければ!)に興奮して辺りをキョロキョロと見ていたし、それからはハイハイや用意された玩具(その中にナイフや弾が入っていない銃があったのは見ないフリをした)で遊んでいた、のだが。
…何を言いたいかというと、その全てに飽きて暇なのだ。
赤ん坊がこれ程までにやる事が制限されているとは、当たり前ながら現在体感するまで知らなかった。

「あぅう、いぁ、うぅあ〜(暇、暇、ひぃま〜)♪」

手足をバタバタさせながら歌っていると、ひょいっと体が持ち上げられた。
両脇を掴む腕を辿るとこの世界での父、シルバ。
人が気持ちよく歌っていたのを邪魔され、何だこの野郎とシルバを睨みつけるがそれに分かっているのかいなのか、彼は私に笑いながら言った。

「ハスカもそろそろ訓練するか。」

「あぃ……?(はっ?)」

私が混乱している間に、あれよあれよと準備は進み、シルバに呼ばれて来たこの世界の母・キキョウに抱えられ地下の一室に運ばれた。
そしてその部屋の椅子に両手両足を縛られ、冒頭に繋がる。

まず整理させてほしい。
頑張るって何を?
―これはシルバの発言からして訓練を。
その訓練って何の?
―この異様な家族がする何かの為の。
その何かって?
―はっきりとは解らないが、気配を消す必要のあるマフィアやスパイ、ヒットマンなどの裏側の何か。

……今度会ったら消滅させてやるあの狐(カンリニン)。


「それじゃ、いくわよハスカちゃん!」

そうキキョウは言うと私の座る椅子についたレバーを引き下げた。

「っ!!?」

全身に電撃が走る。
それは比喩では無く、実際に。
これは何だ?と脳が考えを巡らせても、頭は働かない。
逆に体はビリビリとした感覚が全身を包み、手や足が意思と関係なく動いた。
体と思考が噛み合わない。
喉は音にならない雄叫びを上げ、視界が霞み出す。

―やばい、落ちる。

そう感じた時には、黒に染め上げられた。
自分も見えない空間に投げ出され、それに既視感を覚える。
ああ、そうだ。クライスに会ったあの場所と似ているのだ。

―何だ、また冥府への門に来てしまったのか。

そうだとすると、また私は死んだという事になる。
流石に生後半年で寿命がきたなど、早すぎでは無かろうか。
あの狐野郎をブン殴らないと、私の気が済まない。
どうやってクライスを抹殺するか考えていると、遠くに光が現れた。
その光で私の姿が確認出来た。どうやら、今の私は前世で死んだ時の17歳で制服だった。
まぁ、そんな事はどうでもいい。
この暗闇の出口かもしれない、光に近づく。
すると其処にはある光景が映されていた。


『うぅ…何で…、何でこの子が。』

真っ黒な服を着て涙を流す前世の母(オカアサン)。

『……母さん。』

その人に肩をまわして宥めながら、自身も沈痛な面持ちの前世の父(オトウサン)。

『蓮華…、嘘吐き!!約束したのに!』

そう言って泣き喚く前世の友人。

「…………。」

皆皆、悲痛の表情を浮かべていた。
まるで誰かを惜しむ様に、誰かを失い傷ついたかの様に。
その光景が映していたのは、私の葬式だった。

哀しむ彼らを見ても私には一切、悲哀が生まれることはなかった。
彼らの存在を忘れてた訳じゃない。
ただ受け入れていたのだ。
自分の死も、彼らともう二度と会うことが出来ないことも。
ただ、それだけ。

今更彼らの姿を見た所で何になるのだろう。
この映像を見せている相手は、何を考えているのだろう。
慈悲のつもりか、それともお恵みか。
…或いは、嘲りか。

どれで合ったとしても、私の反応は期待外れだったことだろう。
泣くことも、縋ることも、喚くことも、ましてや言葉さえ一言も発することは無かったのだから。

黒が徐々に薄くなっていく。
それを眺めていると背後から、奴の声が聞こえた。

「もう、蓮華ってばツマンナイな〜。ま、"初めて"の反応で斬新だったけど〜。」

初めて、ということは私以外にもこういった事を何回もしてきた訳だ。

―それが映像を見せる事か、それも含んだ転生かは知らないが。

転生した者の存在を元の世界から消したくせに、元の世界で関わった人々が自分の葬式をあげる映像を作り上げ相手に見せるなんて。

何て、悪趣味な狐だろうか。

私は後ろに体全体で振り返りながら、奴の腹に拳を思いっきり打ちつけた。
ごほっとか聞こえるが無視だ無視。
腹を押さえ屈み、痛みに呻くクライスを見下ろす。

「消えろ、狐野郎。」

そう毒を吐き捨てた瞬間、辺りは白に染まり、私は目を閉じた。

次に目を開くとベビーベッドに寝かせられていた。
どうやら私は電撃で気を失っていたらしい。
これから体を慣らす為に毎日するとか、キキョウが言っていた気がするが気のせいだと思いこませて、私は眠りについた。



03.初めてが多々起こる1日





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