偶然と思うべきか、必然と呼ぶべきか。
20回目の誕生日、私は自分を神様と語るものに出会った。



20XX年、梅雨入りした某日。
私は二十歳になった。
専門学校に通っている、何処にでもいるような普通の人間。それが私。
そんな普通でありきたりな、一般人の目の前には自称、神様。
何故こんなことになったのか。
私は数時間前の出来事を反芻した。
雨が大降りというには大人しく、小降りというには激しい中、常備している折りたたみ傘を開き道路を歩いていた。
家路の途中、ふと見つけたのは弱っていく小さな白猫。
この雨が体力のない子猫の命を消そうとしているのは歴然だった。
私のちっぽけな良心が死にそうなこの子をほっとく訳にはいかないと叫ぶ。
私は子猫に手を伸ばし、拾い上げた。
子猫は抵抗しようとしたのか緩く前脚を持ち上げたが力が入らないのか、すぐに降ろされる。

「大丈夫、別に君に何かするつもりはないよ。」

そう子猫に語りかける私はきっと周囲から変人の称号を得るだろう。
まぁ、気にしちゃいないが。
よっと婆臭い掛け声とともに立ち上がると再び家に向け、足を進めた。

雨に濡れた体を温めたいが、先に子猫を休ませなければ。
弱まっている子猫を風呂に入れることは出来ないので、タオルをぬるま湯につけ絞る。
それで子猫の体を拭い、乾いたタオルで拭く。
ある程度水分が取れたなら、子猫から30cm程離したドライヤー乾かす。
毛が乾いたのを確認し、タオルケットでその小さな体を包んだ。
起きたとき用にご飯を作っておこう。
猫用のミルクなど猫を飼っていないので、家にない。
ツナ缶を開け、それをざるに入れ水で洗った。
細切れにし、皿にのせ猫のそばに置いておく。

「一時しのぎだから、仕方ないよね。」

そして私はお風呂へと向かった。
熱したシャワーの水を頭からかぶる。
科学発展が進み空気汚染や水質汚染された現代の雨粒に汚された髪が気持ち悪い。
シャワーを浴びるだけにしようかと思ったが気持ち悪さが勝ち、手早く髪と体を洗うことにした。

居間の扉を開けると丁度食べ終わった子猫が皿から頭を上げる。

「もう大丈夫みたいだね。」

そっと近づき子猫に手を伸ばす。
子猫は少し緊張したようだったが私の手を避けずに触らせてくれた。

「君はどうしたい?」

私がそう問いかけると何を感じたのか、子猫は私の目を見つめてくる。
その瞳は緑がかった墨色で色に反し、透き通っていた。

「……助かった。礼を言う。」

子猫は言葉遣いとは逆に幼く、男女どちらともとれない声を発した。
こういう場合どう対応すればいいのか、私には分からない。
猫が人語を喋るというのはありえるのだろうか。
よくあるテレビでの喋る猫などは、そう聞こえる程度でしかない。
これほどはっきりと喋れる猫などいるはずがない。
そう思うが実際目の前に存在する。
・・・・どういうことだ。

「君は本当に猫なのか?」

「この形は変体している。人間がいう言葉で僕を表すなら神、だろう。」

「……かみって神様?hairやpaperじゃなく?」

「ああ。」

躊躇いもなく頷く自称神に、私はどう対応するべきだろうか。
まず、相手のいう事の真偽がわからない。
だが違うと仮定できない程、現状は不可思議な事が起こりすぎている。
ならば彼、若しくは彼女の言うことを信じてみよう。
本当だとして、何故ここにいるのか?それともその姿についてか?はたまた何故それを私に話したのか。
どの疑問から処理すればいいんだ?

「此処にいるのは下界散策。この姿は知らない場所に迷い込んだ時に怪しまれない為。お前に話したのは恩を受けたなら返せと言われているからだ。」

猫は何故私の言いたいことがわかったんだ…?
顔に出てたとか?いや、私はそれなりに表情を操れるからそれはない。

「顔に出てた訳じゃない。ある意味ポーカーフェイスだなお前。」

「まぁ、じゃないとやっていけなかったし。」

「……そうか。そういえば自己紹介がまだだったな。僕の名はフェリノア。」

「フェリノア、略してフェリだね。私は煌。廣瀬煌さ。」

「急にだが、煌。今したいことってあるか?」

「本当に急だな!……したいことねぇ?あ、あれだトリップ!Hunter×Hunterの世界には行ってみたいな。まぁ、「その願い叶えよう。」思ってるのが楽しい…って今何と?」

私は日本語が分からなくなったのだろうか?

「お前が言った世界に送ってやる。」

聞き間違いであってほしかった……。

「……それ取り消しは?」

「無理だ。」

思ってるのが楽しいのであって本当に行きたい訳じゃない。
というか死ぬ。
平和な現代を生きた私が行ったら即刻死ぬ、自信がある(嫌な自信だが)。
それに、だ。
私には苦手な奴がいるんだ。
そう、変態奇術師ことピエロ。いやヒソカだ。
私はどうしてもヒソカというキャラが苦手だ。
理由は色々あるが最大の理由は私がピエロが恐かったからだ。
あれを見てどう笑えというのか。
小さい頃、遊園地で風船を持ったピエロを見て、私は逃げた。
それなのにあろうことか奴は私を追いかけてきたのだ!
子供心にそれはそれは深い恐怖を与えた。
それから私はピエロが苦手である。
流石に恐さはもう感じないが、今でも出来れば近づきたくない。
だというのに、私はヒソカのいるハンターの世界に行かなければならない。ハハハ。
……世界は広いはずだ!会わなければ問題ない!

「考え事してるところ悪いが送るぞ。」

その言葉が聞こえた時には、目の前は真っ黒だった。



一期一会とはよく言うが

(こんな縁は望んでない)




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