『お疲れ様でしたー』


バイトで最後の片付けを終えて、ふとお店の窓に目を向ければ外はすでに真っ暗。



今日は迎えに行けへんから、遅くなるようやったらひよ里か誰かにでも頼み。
真子の言葉が頭を過る。


遅番のシフトの時は真子の優しさに甘えて、いつも迎えにきてもらっていた。


俺が勝手にやってる事やから気にすんな、口ではそんな風に言ってるけどやっぱり大変なはず。



お店の裏口から外にでると夜風が通り抜け、ぶるりと身体が震えた。


カフェでのバイトには最近ようやく慣れてきたけれど、一人で帰るのはやっぱり少し心細い。
大して遅い時間じゃないのにそう感じるのは、きっと真子と一緒に帰るのが当たり前になっていたから。



そんな事を考えながら一歩足を踏み出した所で、見慣れた金髪が視界に飛び込んできた。


壁にだらりともたれかかってしゃがみ込み、こちらに気づくと軽く手を上げる。



『真子!』



何故ここにいるのか驚いたけれど、それよりも来てくれた事が嬉しくて、小走りで彼に駆け寄った。


『お疲れさ〜ん』


すっと立ち上がると、頭にぽんっと乗せられる大きな手。
そんな些細な優しさも私が真子の事を大好きな理由の一つ。


『今日は来れないんじゃなかったの?』


『まぁ、大した用事じゃなかったしな』


ほな帰ろか、そう言ってすっと差し出された手をとるとその指先はすっかり冷え切っていた。


随分長い間外で待たせてしまっていたのに、それでもいつもと変わらない態度の彼に胸の奥がぐっと締め付けられる。





『どないしてん?』


名前の手を引いて歩き出そうとする真子だが、彼女が立ち止まったまま動こうとしない事に気付き歩みを止めた。



『真子、これからは一人で帰れるから迎えに来なくていいよ』


これ以上真子に甘えてばかりじゃいけない。私が言わなきゃ優しいこの人はいつまででも迎えに来てくれる。



『俺が好きでやっとる事やって前にも言うたやろ』


『だけど手だってこんなに冷たくなってるし。これからもっと寒くなったら風邪ひいちゃうよ』


きゅっと真子の手を両手で包み込むと、今もひんやりと冷たさが伝わってきた。



『だからもうこれからは、』


迎えに来てくれなくて大丈夫、そう言おうとする前に真子に抱き締められ言葉の先を遮られる。



『寒かったらこうしとればええ』


俺の身体は単純に出来とんねん。名前が側におればすぐに暖まるわ。



『だけど…』


『しつこいで』



強引に重なった唇。
身体は冷え切っている筈なのに、唇から伝わってくる真子の熱はとても熱くて。





『覚悟しときや。オマエが嫌や言うてもいつまででも付きまとったるからな』



俺の性格よう知っとるやろ。


俺もたいがいしつこいで?



『嫌だなんて…言う訳ないでしょ』


『せやったら黙って俺に迎えに来てもらっとったらええねん』





『ありがとう、真子』





愛しき公認トーカー





『ね、結局用事ってなんだったの?』


『…晩飯当番』


『えっ、いいの?こんなとこ来てて…』


『ええねん。勝手に何か食うやろ』





名前が気にする必要ないねん。
ただ俺がオマエと一緒におりたいだけや。





fin



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