いつも一緒だった。死神になるなんてそんな大それた夢、微塵も抱いていなかった幼い頃からずっと。


拳西と白と、そしてわたし。三人同じ歩幅で歩いてきたはずなのに何時からだろう、自分の前を歩く二人の背中を必死で追わなければならなくなったのは。走っても走ってもその距離は一向に縮まることはなくて。どれだけ頑張ってもただ広がっていくだけの距離に酷い劣等感を覚えた。どんどん小さくなっていく二人の後ろ姿がいつかはわたしの手の届かない所へ行ってしまうんじゃないかと、毎日そんなことばかり考えていた。





『何で?今回の任務どうしてわたしも一緒に行ったら駄目なの!?』


『駄目なもんは駄目なんだよ。決定事項だ、諦めろ』



もう何度目だろう、こんな風に拳西に食って掛かるのは。思い出そうとしたらきりがない。面倒くさそうにぐしゃぐしゃと頭を掻く自分の上司に向かって更に声を張り上げた。



『わたしも…、わたしだって前線に出て戦いたい!』


『今回の任務は白の奴に任せてある。お前までわざわざ出る必要ねぇよ』



いつもそうだ。わたしだってそこまで馬鹿じゃない、拳西が何を考えているのかぐらい薄々分かってるつもりだ。だてに今まで近くで見てきたわけじゃないんだから。やんわりとした言葉で上手く誤魔化してるつもりなのかもしれないけれど、そんな浅はかな嘘で騙される程子供じゃない。



『…はっきり言えばいいのに』


『あ?』


『九番隊に力のない奴は必要ないって!お前なんかクビだって言えばいいのに!!』


『いい加減にしろ、誰か聞いてたらどうする』



鋭い視線が痛いぐらいに突き刺さる。それはそのまま射殺されてしまうんじゃないかと思うぐらい真っ直ぐで、僅かに乱れた拳西の霊圧のせいで呼吸さえ苦しくて。これが隊長、もうわたしの知っている彼はどこにもいないのかもしれない。拳西も白も、もう二人はわたしとは住む世界が違うんだ。



『いいよ、辞めてあげる』


『お前、自分の言ってること分かってんのか?』


『必要とされてないならここに居ても意味がない。わたしのこと必要としてくれてる場所探すから』


『…』



何か言って欲しかった。ううん、そうじゃない。気休めの言葉なんていらないからただ止めて欲しかっただけ。だけどこの人が何も言わないのはきっともうかける言葉すら見つからないから。知らなかった、わたしってこんなにも愛想つかされちゃってたんだ。





『あっれぇ〜、二人とも真面目な顔してどったのぉ?』



この場の空気に不釣り合いな暢気な声。何も知らない白は部屋の中にわたしの姿を見つけると一際目を輝かせてちょこちょこと近付いてきた。白は何も悪くない、まるで関係ないのにその無邪気さが今は無性に苛ついた。



『じゃ、わたしもう行くから』


『あ、おい…』



もうこれ以上ここに居たくない。勢いよく走りだしたせいで振り向きざまに白と肩がぶつかった。態勢を崩しながら純粋で真ん丸な瞳が不思議そうに見つめてくる。ぱちぱちと瞬きをするその無垢な二つの瞳が眩しすぎて、それ以上に自分自身が情けなくて居てもたってもいられなかった。全てを見透かされるのが怖くて慌てて逃げ出していた。



悔しい、悔しい、悔しい。



わたしだって拳西の役に立ちたかった。白の力になりたかった。ずっとずっと一緒にいたかった。


だけどもう九番隊にわたしの居場所はない。そんなのとうの昔に分かってたことじゃない。ただ認めたくなかっただけ。だけど本当にもうこれでお終いなんだ。












『またここに来ちゃった…』



がむしゃらに走って辿り着いた場所はいつもの場所だった。落ち込んだ時に必ず足を運ぶ場所。


目の前に悠然とそびえる大樹は近くに立っているだけでわたしに元気をくれた。しっかりと大地に根をはり決して揺らぎそうにない幹からは、まるで空を掴もうとするように無数の枝が広がっている。こんな風にわたしもなりたい、ずっとそう思っていた。





『…っ、』



堪え切れずに溢れだした涙が頬を濡らす。拭っても拭っても堰を切ったように零れる涙をもう自分ではどうすることも出来なくて、人気のないその場所に立ち尽くしたまま大声で泣いた。












どのぐらいそこにいただろうか。いくら何でもそろそろ戻らないとまた拳西を怒らせる。辞めると決めても今はまだ九番隊の一員なのだ。
重い足取りで歩き出したそのとき、ぐにゃり、一瞬視界が歪んで見えた。



あ…、れ……?



何だったんだろう、今の。


きっと気のせいだよね。珍しく大声で泣いたせいで疲れただけだ。気を取り直して再び歩きだした瞬間、今度は自分の周囲の景色が激しく揺れた。





何が…起こってる?





目の前にスローモーションのように迫ってくる地面をぼんやりと見つめながらようやく理解した。ああ、景色が揺れた訳じゃない。自分が倒れただけだと。
途切れかけの意識の中わたしの名前を叫ぶ白の声と息を切らして必死に駆け寄ってくる拳西の姿を見た気がしたけれど、それはきっと気のせいに違いない。そんな夢みたいなことある訳ないのだから。





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