『お前ら、最近全然会えてねぇだろ?これあいつのとこ届けてくれるか?』


気を遣ってくれたのだろう。羅武から手渡された一枚の書類を片手に、とある隊首室の前で立ち止まる。


部屋の中から僅かに漏れる音楽が廊下まで聞こえてくる。



確か現世の音楽でジャズだとか言ってたっけ。



『すみません、七番隊隊長の使いで参りました』


『名前か?ええで、入り』


襖の向こうから何ともお気楽な声に促されて部屋の中へと入った。


『失礼します』


入室するのと同時に満面の笑みに迎えられる。


『今日はどないしたん?愛しい俺に会いに来てくれたんか?』


『はい、これ羅武から預かってきた書類』


『スルーかい…』



不貞腐れた表情でさやから差し出された書類を受け取ろうと手をかけた真子の動きが、何かを思い出したかのように急に止まった。



『…そういや、』


座ったまま見上げてくる真子の視線がやけに色っぽく見える。





『こうやって二人きりになるん久しぶりやな』


確かにこうやってちゃんと会うのは久しぶりかも。


『だってそれは真子の執務が忙しいから。でも隊長だし仕方ないよね』


『名前は俺に会えんくても平気なんか?』


ゆっくりと席を立ちさやの目の前まで来ると、彼女の艶やかで長い黒髪に指をするりと通す。


『そんな事ないよ…』


私だって寂しいと思ってる。だけど真子の負担にはなりたくない。隊長であるこの人と付き合うようになってそれくらいの覚悟は出来ているつもりだ。



『俺は一日でもオマエに会えへんだけで死にそうやねんけど』



低い声が耳元で響いた瞬間、急に変わった目の前の景色に一瞬何が起こったのか分からなくなる。



名前の目に映るのは、自分を上から見下ろす真子。そして聞こえてくるのは机からバサバサと崩れ落ちる書類の音。





『真子…あの、ここ隊首室だよ』


『そんなん分かってとるわ。せやけど今は二人きりや。邪魔な惣右介もおらへんし』


にたりと妖しい笑みを浮かべて、頬から首筋にかけて緩やかに撫でられるだけで身震いしてしまう。


『でも誰か来るかもしれないし…』


真子の腕の中で必死に藻掻いてみるものの、女の力ではあまりに無力だった。


『逃げれると思てんのか?甘いわ』


『こんなとこで無理だってば!』


『あんましでっかい声出すと誰か来てまうで?』





最初は必死に抵抗していたが、久々に感じた甘い声と感触に、そんな気力も徐々に掻き消されていく。


ここが隊首室だとか人が来るかもしれないだとかそんな羞恥心もどんどん薄れていって。真子の羽織をぎゅっと握り締めていた。





『なぁんてな』


額に優しい唇の感触を感じたのと同時に、彼の温もりがすっと離れていく。ゆっくりと#さやの身体を引き起こして、乱れた髪や死覇装を優しく整えてくれる真子。



『お楽しみはまた今度や。その前に…』



頭を掻きながら溜息を吐き出すと、面倒くさそうに背後の襖に視線を移した。



『惣右介ぇ、いつまでそこに立っとんねん』



少しの沈黙の後、失礼しますと穏やかな声と共に襖が開く。



『あ…藍染副隊長、いつから外にいらしてたんですか?』


『すみません、お取り込み中みたいでしたので』



全然気付かなかった…。


驚きを隠せない名前を余所に、にこやかな表情を向ける藍染。



『白々しいのォ…。外で聞き耳立てとったくせに…』


『僕はただ、隊首室で不適切な行為が行われないように様子を伺っていただけですよ』


『それが聞き耳立てとる言うんじゃ、ボケ』


『今日はこれをお持ちしただけです。明日までに目を通しておいて下さい。それでは邪魔者は失礼します』


二人に軽く会釈すると何事もなかったかのように部屋を去って行った。



―――‐‐‐



『何やねん、アイツ。嫌味なやっちゃなァ…』


『…それじゃ、私もそろそろ帰るね。あんまり遅いと羅武に怒られるから』


『あーちょお待ち』


隊首室を出ようとした所で後ろから回された腕に抱き締められる。


『もう行かないと…』


『アカン。行かせへん』


久々に会うたんやで?ちょっとぐらいこのままおらしてや。


耳にかかる真子の吐息と背中に感じる温度が心を穏やかにしてくれる。規則正しく伝わってくる彼の心音さえも心地よく響いて。



『真子、なかなか会えないけど…でも大好きだからね』


回された腕にそっと触れて振り返ると、待っていたかの様に唇が重ねられる。


『俺もや』





背中越しの温度





最近会えんかった分後でいーっぱい取り戻さんとなァ。





fin




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