重い瞼を薄らとこじ開ければ射し込んでくる白い光に眩暈がした。視界いっぱいに飛び込んできたのは真っ白な天井。その片隅で風に揺られてひらひら舞う白いカーテン。





ここは……、救護詰所?





焦点が定まらないまま辺りをぼんやり見回しているとある一点で目が釘付けになった。まだ自分がさっきまでの夢の続きを見ているのかとさえ思った。それはわたしが寝ているベッドのすぐ脇で頭を抱えて腰掛けている拳西の姿。



『くそっ…』



苛立ちを押し殺すみたいに頭をぐしゃぐしゃに掻き毟ってそのまま机の上に突っ伏した。こんならしくない拳西初めて見た。大きな身体が小刻みに震えているようにも見える。怒ってる、んだよね。当然か、あんな勝手なこと言って飛び出したんだから。





『…せっかくの男前が台無しだよ』



ぴくりと反応した背中。ゆっくりとわたしの方へと向けられた視線は意外なほど穏やかで優しいものだった。隊長でいる時のいつも眉間に皺を寄せていて人を寄せ付けない鋭くて野獣みたいな瞳も嫌いではなかったけれど、それよりも今のこの表情がわたしは好きだった。護廷十三隊に入ってからほとんど見せることのなくなった拳西の本来の姿、だと思うから。



『怒ってるよね』


『当たり前だ』


『ですよね…』



最後の最後までこんなダサい終り方なんて、どうしてわたしはこうつくづく運がないんだろう。どうせ辞めるんなら威勢よく啖呵を切ってもっと格好良く辞めてやりたかった。



『…過労だとよ、卯ノ花さんが』


『そっか、ごめんね』


『白の奴も心配してたぞ。ったく、心臓に悪いだろーが』



正直驚いた。だって拳西の口からそんな台詞が出るなんて予想も出来なかったから。過去の思い出なんかにずっと縋ってるのはわたしだけで、この人にそれと同じものを要求するのは無理強いだということも分かっていたから。



『あの…ね。拳西、さっきの話なんだけど』


『認めねーからな』


『は?』


『だから辞めるなんてのは絶対認めねぇつってんだ』



元々無表情で感情をほとんど表に出さない人だから一体何を考えているのか見当もつかなかったけれど、窓の外をじっと見つめたまま何かを考えて込んでいるみたいだった。



『でもわたしがいたら迷惑でしょ』


『迷惑なんて思ってねえ』


『じゃあ聞くけど、どうしてわたしは大きな任務には同行させて貰えないの?』



核心をついた質問になるとそれきりまた何も言わなくなってしまう。長い沈黙が余計に心を傷つける。変に同情されるぐらいならはっきり言ってくれた方がどれだけましか分からない。



『だからそれはなんつーか…分かれよ』


『分かんないよ、ちゃんと説明してくれないと』



出来ることならわたしだって九番隊を去るなんて考えたくもない。今まで良くしてくれた仲間の皆や、何より拳西や白と離れ離れになるなんて想像したくもなかった。



『…本当に分かんねぇのか?ったく鈍い奴だな』



ぎしりと軋むベッドのスプリングの音はわたしの心音によって掻き消された。近付いてきた拳西の顔はどきっとするぐらい悩ましげで。幼い頃に戯れ合っていたのとは違う、男と女の距離にどうしていいのか分からなくなる。




『大事な女に怪我でもされたら困るからな』


『え?』


『…だから好きだっつってんだ、何度も言わせんな』



強引に抱き込まれた腕の中、直に触れた胸板から伝わってくる拳西の鼓動は確かに速くて、そしてとても暖かい。本当はこういうの得意じゃない根っからの俺様男のくせに、優しく髪を掬う不器用な指が愛おしくてたまらなくなった。
わたしもずっとあなたのことが好きだった、広過ぎる背中に手を回したら更にきつく抱き締められた。










『なぁ、さっきまでお前がいたあの丘にあるでっかい木。あれ桜の木だよな?』



拳西に言われて開かれた窓の方に視線を向けた。そこから少し遠くを望めば広がる風景はついさっきまで自分が立っていたまさにあの場所。



『そうだよ』


『お前しょっちゅう通ってたろ。あの桜そんなに特別なのか?』


『うん。あの「さくら」はね、わたしにとって特別なの』



今は花一つ付けていないけれど長い冬をじっくり堪え忍んで暖かい春には満開の花を咲かせる。四季を通して色々な表情を見せるあの木にわたしは幾度となく勇気づけられてきた。



『もうすぐ春になるでしょ。花が咲くのが今から待ち遠しいんだ』


『今度俺も連れてってくれよ。お前の特別な「さくら」、もっと近くで見てみたい』










ねぇ、今度はいつ任務に同行させてもらえるの?


また今度俺が一緒の時にな。


拳西て意外に過保護だね。


うるせー。





2011.01.23

記念小説 「Mr.RULER」佐倉さまへ






佐倉さま
この度は相互して下さり本当にありがとうございました!

リクエスト通り切甘な感じになっていたでしょうか?せっかくの記念小説なので少しでも佐倉さまにちなんだものにしたいと思い、佐倉さまのお名前を勝手にお借りして「さくらの木」を登場させてみました。お気に召して頂けたら幸いです。

それでは今後ともTe quieroとミツヤをどうぞ宜しくお願い致します!



ミツヤ






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