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数十年前



南流魂街78地区「戌吊」外れ














消えてしまいたい―――










ひたひたと薄暗い森の中を進む一人の少女。






突然目の前に巨大な虚が現れる。
だが少女はその迫りくる虚に躊躇うことなく歩みを進めた。










もう



どうなってもいい













ギャアアアァァァ……!!






響く断末魔。
辺りを大きく揺らす地響き。








覚悟を決めて閉じたはずの瞼を恐る恐る開けば、崩れ落ちた虚と自分の間に立ちはだかる一人の男がいた。







漆黒の衣を身に纏ったその男の黄金色の髪があまりに美しくて。今自分が置かれている状況などすっかり忘れてその背中に釘付けになっていた。







『……どうし…て?』



必死の思いで喉の奥から声を絞りだす。振り返った男の表情は、この場の雰囲気にはとても不釣り合いな程眩しかった。






『女の子がこないな場所うろついとったらアカンやんけ』


『邪魔…しないで……』





せっかく楽になれると思ったのに。
荒んだあの生活からやっと抜け出せるはずだったのに。





『そら残念やったなァ、お節介なヤツに見つかってもうて』


『お願いだからほっといて下さい…』


『いくら可愛え女の子の頼みでもそれだけは聞けへんわ』





ゆっくりとこちらに近付いてきた男の足が目の前で立ち止まる。次の瞬間、自分の頭上に振り上げられた大きな手に身体が震えた。





『え…』





ふわり、
予想もしていなかった優しい感触にさっきまで強張っていた身体の力が徐々に抜けていく。







『自分のこと粗末にしたらアカン』





ああ、どれくらいぶりだろう……。
こんな風に髪を撫でられるのは。こんなにも優しい顔をした人に出会うのは。
とうの昔に忘れ去っていたはずの感情が少しずつ甦っていく。






『ほれ、森抜けるとこまでついてったるわ。行くで』


『あ…、あのっ…!!』








何や?





お名前…、お名前教えて下さいませんか…?





平子…、
平子真子や。






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