『ま、そんな訳だ。お前は七番隊代表として参加決定な』


『ま、待ってよ!そんな訳って、どんな訳!?』



隊首会が終わり隊舎に戻ってくるなり、羅武がとんでもないことをさらっと口にした。
しかも普段愛用の湯呑みでのんびりとお茶を啜りながら。全く他人事のような態度だから余計に腹が立つ。





『そんなの聞いてないっ!』


『当たりめーだろ、今言ったんだから』


『絶対嫌だからね。羅武が出ればいいでしょ』


『隊長は出場できねえ決まりなんだよ』




親善試合の出場枠は各隊につき五名が絶対条件というだけで、それ以外の人選は隊長に一任されているらしい。
斬魄刀の使用は許可されているが公平をきすため始解と鬼道の使用は厳禁とされており、この規約を破った者及び場外に落ちた者は即時失格となる。つまりは基本的な剣術と体術のみの勝負になる訳だ。





『カヤ、たまには身体動かさんと鈍るで?』


『うるさいなぁ。てか、なんで真子がこんなとこにいるの』



何故か他隊の隊首室で我が物顔でくつろいでいる男を視界の端っこに捕らえながら思い出すのは昨夜のこと。
だらりとソファーに身体を預けているこの人を見ていると、つい昨日のことが夢だったんじゃないかと一瞬錯覚してしまう。でもわたしは昨日一晩確かに真子と一緒に過ごしたんだ、それを考えるだけでろくに目も合わせられなかった。





『隊長がこんなとこで遊んでていいの?』


『酷い言われようやなァ、昨日の晩あんなに可愛…』
『ちょ、ちょっと!!』



まったく油断も隙もあったもんじゃない。余計なことを言うなと睨んでやったら緩んでいた口角がくいっ、と意地悪く持ち上がった。





『どうせやるからには狙うのは優勝だからな。頼りにしてるぜ?副隊長』


『羅武のばかっ、職権濫用!』


『おー、何とでも言え』



半ばやけくそになりながらも、試合当日のことを思うと今から気が重くて仕方がなかった。





『そろそろ戻るかァ、惣右介のヤツめんどいからな』



相変わらず怠そうな猫背が部屋をのそのそと出ていく。まだ午前中だというのに、この人は仕事をやる気があるのか。





『…あー、そうや。カヤ』


『どうしたの?』



わたしの真横を通り過ぎる瞬間、真子の声が耳元で囁いた。わざとらしく注ぎ込まれた吐息がふわりと髪を撫でる。





『心配せんでもバレるようなとこには付けてへんて』


『何でそのこと…』


『丸聞こえや、アホ』



何も言えないわたしを余所に、きっと面白がっているであろう真子の背中がひらひらと手を振りながら遠ざかっていった。







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