思わず目移りしてしまうぐらいたくさん並べられた簪の中から、真子はなんの躊躇もなく一本の簪を手にとった。





『これ貰うわ』


『毎度あり』



なんだか上手く乗せられて買わされた気がしないでもないけど。
呆気に取られるわたしを余所に、簪を持った手がすっと頭上に伸びてきた。





『思った通りや。よう似合っとるで』


『貰って、いいの?』


『当たり前やろ、カヤ以外にあげるヤツなんかいてへんわ』


『ありがとう…』



満足げに笑う彼の表情と、不意打ちの優しさがまた心を掻き乱す。



そんな何気ない表情の一つ一つが、実は物凄い破壊力でわたしの中で暴れ回ってるだなんてきっと気付いてないんだよね。






『ほんと見れば見るほど似合いの夫婦だねぇ』


『だから、夫婦なんかじゃ…』
『カヤ、照れんなて』
『照れてないってばっ』


『何言ってんだい、そんな立派な子供までいるってのに』





『え、子供…?』
『子供…?』





何となく嫌な予感がしたのは二人とも同じだったみたいだ。すぐに察しがついたであろう真子はあからさまにうんざりした表情を浮かべている。
お互い顔を見合わせながら恐る恐る背後に目を向けた。






『お父ちゃん、お母ちゃん、ボクだけ置いてくなんてひどいやんか』


『…またオマエか』


『ギン、なんでここに…』



目の前で白々しい演技をするその少年はやっぱり予想通りの人物で。
わたし達の浴衣の袂をしっかりと握る姿、それは二人の子供だと勘違いされてもおかしくない光景だった。





『可愛い我が子を置き去りにするなんて信じられへん』


『オマエみたァなクソガキが何で俺らの子供やねん』


『うわ、酷い、酷過ぎるわー』


『俺とカヤの子供やったらなァ、びっくりするぐらい可愛えに決まってんねん』


『二人しておかしな妄想しないで…』



相変わらずの真子とギンのやりとりは、一見したら仲の良い親子に見えなくもないんだけど。







『でもまぁ…、いいんじゃない。三人で見て回るのも楽しそうだし』


『はァ!?何でやねん!』


『行こ、行こ。隊長はんももたもたしとったら置いてくでー』


『…ったく、しゃーないのォ……』





『それじゃあ、おじさん。わたし達そろそろ行きます』


『またいつでも戻っておいでよ』




にこやかに手を振るおじさんに見送られて、ギンの手をとって歩きだした。



不意に振り返ったギンが、後ろからだらだらと気怠そうについて来る真子の浴衣を引っ張っる。





『おい、コラ。引っ張んなっ』


『ええやんか。な、お父ちゃん』




ギンを真ん中にして三人で歩きながら、親子だって間違われるのも何か悪くない、そう思った。





2010.08.23






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