『それで今日はどこへ連れてってくれるの?』


『お楽しみや言うたやろ?ええから黙ってついてこればええねんて』





次の日の夜、約束通り向かえに来てくれた真子に連れられて、行き先も判らないまま後をついて行った。
死覇装に隊首羽織といういつもの姿ではなく、紫黒色の浴衣をさらりと粋に着こなした彼が部屋の前に立っていたときは大袈裟じゃなく息が止まるかと思った。



それはきっとわたしだけじゃなく誰もが見蕩れてしまいそうなぐらい、やたらと色っぽくて。男の癖して艶やかという言葉がぴったりだった。



すれ違う他の女の人達が真子を見て振り返っていたのは、きっとわたしの気のせいじゃないと思う。







『ええ男過ぎて腰抜けたか?』


『誰が?』


『俺や、俺。さっきからごっつい熱視線が突き刺さっとるんやけど』


『自分で言わないと他に誰も言ってくれないなんて、真子も大変だよね』


『何や寂しなってきたわ、俺…』





他愛もない会話をしながら夕暮れに赤く染まる道をどれだけ歩いただろうか。徐々に見慣れた景色が広がってくる。







ここ、は…。







もう随分昔にここを出たきり訪れていなかったこの場所。






『ここって…』


『西流魂街1地区潤林安』


『それは知ってるけど…』


『そらそうやろな。カヤの育ったとこやし』


『ほんとに、久しぶり……』


『で、どや?久々の故郷は?』





ここを出て以来、死神になるために必死で駆け抜けてきたこれまでの時間は、ゆっくりと過去を振り返っている余裕なんて一切無かった。



まさかまた再びここに来られるなんて。そう思うと熱いものが、じんと込み上げた。









ふと、遠くからかすかに祭囃子の音が聞こえてくる。太鼓や笛の音、そして夕暮れの中ぼんやりと浮かび上がる無数の提灯。





『さすがに年一回の祭りともなるとえらい盛り上がりやなァ。こういうんも久々やろ?』


『うん…』


『何や、嬉しないんかい』


『ううん、違う。何か昔のこと思い出したら胸がいっぱいになっちゃって。ありがとう、真子』


『たまにはパーッと気晴らしせんとな。ほれ、ぼーっとしとらんと行くで』





差し出された大きな手を遠慮がちに掴むと少し強引に引っ張られて。
わたしたちは喧騒の中へと吸い込まれていった。






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