『今日明日、しっかり静養しろ。もし出てきたらぶっとばす』


『何それ?』


『羅武からの伝言や』


『ぶっとばすって…』



いつも一緒に居るからこそ、それが羅武なりの優しさだってことぐらいちゃんと解っていた。





『隊長命令や、いくら副隊長や言うたかて逆らえへんよな?』


『そうだけど。でもほんとにもう何でもないのに』


『ここんとこ色々あったし疲れもたまっとるやろ?四の五の言わんと素直に甘えときゃええねん』



そう言って身体を起こすと、真っ白な羽織をひらり翻し肩から羽織る。
そんな凛々しい後ろ姿に目を奪われながら、徐々に失われていく真子の体温が少し名残惜しい。






『今、寂しいとか思ってたやろ』


『べ、別にそんなこと思ってない』


『素直やないなァ』



余裕たっぷりに吊り上がる口角が憎らしいぐらいだけれど、でもそれが事実なのだから何も言い返せない。
やっぱりわたしの見え透いた嘘なんて通用する訳ないんだ。





『ふ、ふざけてないで早く行ったら!?』


『危なっ!何すんねん、ったく凶暴なヤツやな…』



苦し紛れに側にあった枕を投げつけたら簡単に躱されて。





『ま、そんだけ元気やったら大丈夫やな。ほな行ってくるわ』


『うん、いってらっしゃい』





何か変な感じ。
自分の部屋から出ていく真子の背中を、こんな風に見送る日が来るなんて。
少し前だったらこんなこと想像することすら出来なかったのに。





『あー、そうや。明日の夜ちゃんと予定空けとけや』


『明日?何かあるの?』


『デートすんで』


『デ、デート!?』


『ええとこ連れてったるからキラキラのカッコしとけよ』


『ええとこって?』


『そら、明日のお楽しみや』





部屋を出ていく真子をぼんやり見つめながら、意味深な彼の言葉で頭の中がいっぱいになっていた。




2010.08.14






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