『怒ってる、よね?』



恐る恐る真子の顔を見上げた。
微妙な声色の変化は明らかに彼の機嫌の悪さを物語っていた。






『アカン』


『アカンって、何…が?』


『アカンわ』





不機嫌に吐き捨てたきり押し黙ってしまう。その重苦しい空気に先に耐えられなくなったのはわたしだった。







『あの…ね、』


『めっちゃ妬ける』


『え?』


『そんでめっちゃ腹立つ。我慢しよ思たけどやっぱ無理や』





そう言って少し乱暴に塞がれた唇からは、真子の優しさだとか気持ちだとかそういうもの全てが伝わってくる気がして。
込み上げてくる感情が嫌でも視界をぼやけさせていく。





『真子、ごめ…』


『謝んな、オマエが悪い訳とちゃう』


『だって…』


『しつこいで?オマエは俺のことだけ見ときゃええねん。昼間のことは全部忘れてまえ』





辛い時はいつだってそうだ。こうやって常にこの人が先回りをして、不安な気持ちを取り去ってくれる。







『…そんな…の……、』









『最初っから真子しか見えてない、から…』


『泣くな。ひよ里に殺されてまうやろ』


『…何、それ』


『ひよ里にカヤんこと泣かすなて釘刺されたばっかや。バレたらホンマに殺されるわ』





随分と回り道をしてしまった気がする。迷ったり揺らいだり、そんな必要なかったんだ。真子の言葉を信じていればそれでいい。









『…真子ってさ、』


『何や』


『意外に嫉妬深い?』


『おーそうや、悪いか。オマエ、ちょおこっち来い』


『え、やだ、何…』


『しょーもないこと言うヤツにはお仕置きや』





頬を伝わる涙をそっと拭う指の感触は、口調とは裏腹に繊細で。
直後に重なった唇の甘い感触に全身が震え上がった。触れては離れ、何度も繰り返されるその行為にわたしの意識が飲み込まれるのは容易なことだった。





2010.07.31






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