『俺のことは気せんでええからカヤは寝とれや』


『卯ノ花隊長のおかげでもう全然大丈夫だよ』



まさか部屋に上げることになるなんて。真子とは正反対にこっちはそわそわ落ち着かない。せっかくお見舞いに来てくれた手前、追い返す訳にもいかずにこんな展開になってしまったけれど。これからどうしたらいいんだろう。






『なーんか余所余所しないか?』


『別にそんなことないよ。いつもと同じだし』


『そんな風に見えへんけどなァ』



引きつるわたしの顔を覗き込んでニヤリ、楽しそうに笑う真子との距離か余りに近くて心臓が踊る。





『ちょ、近いから…』


『ケチケチすんな、こっち来いや』



そっちが良くてもこっちが全然良くない。たった少しでもこの距離が縮まるだけで、存在を近くに感じるだけで、脈打つ心拍の速さといったら尋常じゃない。





『だから、もう少し離れ…』







『そういや今日、惣右介のヤツに何されてん』








掴まれた手首が熱い。





それはわたしの身体が火照っているせいなのか、それとも真子の掌から伝わってくるものなのか、そんなことを考えている余裕などなくて。ふざけていたかと思えば急に真顔になるから卑怯だ。





『それ、は…』


『俺に言えへんようなことなんか?』





慌てるわたしを見て真子はすぐに全てを察したようだった。みるみるうちに眉間に皺が寄る。
はぐらかして逃げようとしてもそれはあまりにも無意味で。いとも簡単に捕らわれて身動き一つ出来ない。





『えっと…、別に何も…』


『あン時のオマエら、何にも無かったっちゅー雰囲気とちゃうかったやろ』





わたしの煮え切らない態度では、勘のいい真子を欺くことなど到底無理な話で。
静かに吐き出される溜め息は、自らの感情をぐっと押し殺しているようにも見えた。





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