『………長?』





『……副隊長』





『小春木副隊長…!』



はっと我に返って顔を上げれば、数名の新入隊士達が心配そうにわたしのことを取り囲んでいた。





『大丈夫ですか?随分おつらそうですが…』


『…あ、ごめんね。少し考え事してただけだから』





数名の隊士を引き連れ向かった先は、霊門を抜けた先にある、瀞霊廷からさほど遠くない薄暗い山中深く。



今年入った新入隊士達にとっては初めてとなる、実戦形式の演習。いくら低級の虚相手とはいえ、目の前にいる全員が緊張の色を隠せないでいた。
そんな部下達の不安をわたし自身があおっるなんて、一体何をしているんだろう。






『いい?今回の相手は普段の鍛錬の成果と、皆の力を合わせて戦えば必ず勝てる相手だから。あまり力みすぎないようにね』


『『『はいっ!!』』』



今現在周辺に存在する虚の個体数は現地に赴く前にすでに確認済みだ。
相手は三体、こちらの人数はわたしを含めて六人。余程の緊急事態でない限り副隊長の自分は指示も出さないし手出しもしないことになっているけれど、まず大丈夫だろう。





『それじゃあ、行きましょうか』





緊迫した空気の中、互いに一定の間隔を保って周囲を巡回する。





すると程なくして人の気配を察知した虚が三体姿を現す。
五人は一瞬怯んだものの、刀を抜くと連携を取りながら分散していく。虚との間合いをじりじりと詰めると、隊士の一人が先陣を切って斬りかかった。






その時だった。
小さな虚の背後でぐにゃりと景色が歪む。



一瞬自分の目を疑った。
けれど辺りにたち込める禍々しい霊圧が、決して目の錯覚でないことを警告していた。





『危ないっ!』





歪んだ空間から姿を現した巨大な虚。
飛びかかった隊士は止まることが出来ず、そこへ大きな手が振り下ろされる。





『破道の三十三、蒼火墜!』





瞬時に放った鬼道が命中し爆炎が広がる。





『皆、下がって』






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