『今大事な話してる最中だから向こう行ってて』



とにかく今この状況でこの子まで巻き込んではいけない、そう思った。けれどこちらの目論みに反して、ギンは全く気にすることなく近付いて来る。





『せっかく一緒にゴハン食べよ思たのにカヤちゃんおらへんねんもん』


『ご飯ならまた今度食べてあげるから…』



相変わらず空気を読まないのが得意だと感心してしまう。擦り寄ってくるギンを引き離そうと抵抗しながら視線を上げれば、呆然と立ち尽くす彼女と視線がぶつかった。





『ギン…、お願いだからそこどいて』


『いやや』



ぐい、と至近距離まで近付いた顔が妖しく微笑みを浮かべる。
ゆっくりと振り返り、その先に向かってのんびりとした口調で口を開いた。






『で、キミどうするん?』







ボクごと斬ってみる?







『ギン…?』





一瞬背筋に寒いものを感じたのは、わたしの気のせいだったんだろうか。





『くっ…、』


『まぁ、カヤちゃんと死ねるんやったらボクは本望やけど。
 …って、あらら逃げてもうた』



ギンの持つ何か得体の知れない雰囲気に気圧されたとでも言うのか、悔しそうな表情だけを残して彼女はわたし達の前から瞬歩で消え去った。








『怖い顔しとったなぁ、あのお姉ちゃん』


『いい?今度こんなふざけたことしたら怒るからね』


『ふざけてへんよ。ま、もしカヤちゃんに何かあったらボクがあの子斬っとった思うけど』


『ちょっとギン、いい加減に…』


『ええやん、堅いこと言わんと。二人とも無事やったんやし』



そう言って、掴んだ腕をぐいぐいと引っ張る。





『な、帰ろ?』



上手く誤魔化された気もするけれど、ギンの嬉しそうな表情を見ているとさっきまでのことが夢か何かのように思えてくる。
今回は結果的にはこの子に助けられたのかもしれない。





『…ありがとね、ギン』


『ん、何のこと?』





今はただ、この無邪気な笑顔にほっとした。





2010.06.19






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