『平子隊長、わたしのこと抱き締めてくれたんです…。これでも彼のこと信じられるんですか?裏切られてるんですよ?』 そんな時嫌でも思い出すのは今朝の女隊士達の言葉。振り払っても振り払ってもわたしを締め付ける。 『腐れ縁だけど、これでも真子とは付き合い長いから。少なくとも南師さんよりは彼のこと解ってるつもり。 だから悪いけどあなたにそんな風に言われたくない』 頭を必死に回転させてようやく絞りだした出任せだった。本当はそんなに強くない、不安でしょうがない。 自分がそんなに弱い奴だなんて信じたくないからこその、精一杯の強がりだった。 『…同じようなこと言うんですね、平子隊長と』 『どういう意味?』 『あなたがいるせいで、あの人はわたしに見向きもしてくれない!』 唇を噛み締め自らの袴を掴む拳が震えているのが、少し離れた場所からでも解る。 明らかに何かが違う、憎しみにも近い空気が彼女の周囲を取り巻いていた。 『もう一人になるのは嫌なんです…』 遠くをぼんやりと見つめ、彼女の身体がふらりと揺れる。 その先に一体何を見ているのか、焦点の定まらない視線は無感情で寒気すら覚えた。騒ついた生温い大気が肌を撫でる。 『南師さ…』 『…ねぇ、あの人の前から居なくなってよ…。そうしたらきっとわたしのこと…』 するり。伸びた手が斬魄刀の柄にかかる。彼女を取り巻く霊圧が否応なしにわたしにこう告げていた。 本気だ、と。 『ねぇ、話を…』 『残念です。話の解る方だと思ってました』 わたしの言葉などまるで届いていないようだった。今の彼女にはきっと何を言っても無駄だ。 ズキズキと頭の芯が痛み出す。 今朝から何となく調子が悪かったけど、やっぱり風邪なんだろうか。よりによってこんな時に…。 『やーっと見付けたわ、カヤちゃん』 張り詰めた空気を切り裂いた緊張感のない関西弁。 『ギン…?』 ← | → しおり |