『わたしに何か用事?南師さん』


『はい、少しだけお話出来ませんか?』


『…解った、じゃあこっちで』



そう言って数歩踏み出すと、いきなり後ろから袂を掴まれて動きが止まる。





『ウチも一緒に行ったる』


『大丈夫だから、ひよ里』


『こんなヤツ信用出来へん!カヤに何するか解らへんやろが』


『本当に大丈夫。悪いけど先戻っててくれる?』


『いややっ!』



頭に血が上ったひよ里が何を言っても無駄だということは昔からよく知っている。
黙ったまま話を聞いていたリサにそっと目配せすると、仕方ないと言うように溜め息を吐き出して頷いた。





『ひよ里、戻るで』


『ちょ…、ちょお待てや、リサ!』


『アホ、あたしらが首突っ込んでええことと違うやろ。カヤ、また後でな』


『うん、ごめんね』



今だに納得がいかない様子でぶつぶつと文句を言うひよ里とリサに手を振り、その背中を見送った。







『それで、話って?』



二人きりになり、彼女の方に向き直った。
こんな質問今更馬鹿げてる、と自分でも思う。彼女がわたしに話したいことなんて、どう考えたって一つしか思い当たらない。









『もう気付いていらっしゃると思いますが、わたし…平子隊長が好きです』



何の躊躇もなくさらりと耳に届いたその言葉をすぐに受け入れることは不可能で。
いくら予想していた答えとはいえ、平常心を保つのは簡単なことではなかった。





『そう…、それは何となく気付いてた。でもあなたはそんなことをわざわざ言いに来た訳じゃないんでしょう?』



ゆっくりと、自分の気持ちを落ち着けるように息を吐き出した。次に返ってくる言葉に僅かばかりの不安を抱きながら。





『はっきり言わせて貰います。平子隊長のこと、諦めて頂けませんか?』


『え?』



たった一言のその言葉が理解出来ないぐらい、頭の中は混乱していた。考えれば考える程、どんどん深みにはまっていく。





『小春木副隊長さえ諦めてくれれば、きっと平子隊長はわたしを見てくれる』





2010.06.12






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