『ずっと昔、まだ平子隊長が隊長になられる前に一度お会いしているんです』



そう言われて更に記憶を遡ってみても結果は同じだった。
隊長になる前言うたら相当前のことやんか。…アカン、全く思い出せへん。





『済まん…、悪いんやけど思い当たらへんわ』


『いえ、いいんです。あの時…、助けて頂いた子供がわたしだなんて覚えていらっしゃる訳ないですよね』



遠くを見つめまるでその時のことを思い出すように、目を細めてふっと微笑む。





『助けた…って俺がか?』


『あの日流魂街の外れにある森に迷い込んだわたしは巨大な虚に襲われて…』





当時のことが走馬灯のように頭の中に甦ってくる。
確かに何年も前に虚から子供を助けたことがあった。決して忘れていた訳ではない。けれどその子供が彼女であったかどうかまでは定かではなかった。





『…あン時助けた子供が皐チャンやったんか』


『はい。それがきっかけなんです、わたしが死神になろうと思ったのは』



助けてくれたその人にもう一度逢ってちゃんとお礼が言いたくて、死に物狂いで努力してきました。そしてようやくあなたの居るこの場所まで辿り着くことが出来たんです。





『でもいくら死神になってもわたしが隊長格であるあなたに簡単に声をかけられる訳もなく…』


『…』


『ずっと遠くから眺めているうちに、いつの間にか好きになってました』



重苦しい空気が二人の間に流れる。そんな中で先に口を開いたのは真子のほうだった。







『わざわざお礼言いに来てくれたんはありがたいんやけど、気持ちには応えられへん』


『どうしてですか…!小春木副隊長よりもわたしのほうがずっと…』



悲痛な声を上げ胸の中に飛び込んできた彼女の気持ちを遮るように肩を押し返して距離をとった。





『カヤより何やねん』


『…わたしのほうが平子隊長のこと、思ってます…』


『アイツの何が解るん?勝手なこと言わんといてくれへんか』



そう突き放せば、泣きそうだった女の表情が一瞬だけ冷たく歪む。





『何にしても俺みたいなアホな男好きになってもしゃーないで』





悲しみなのか怒りなのか、俯いたまま小刻みに震える彼女の背中をとん、と優しく押して外へと促す。





『そろそろ戻ったほうがええで、な』


『わたし』








『わたし、諦めませんから』





絶対にあの人には負けない。





たくさんの人達に囲まれていつも幸せそうに笑ってて。





何の苦労も知らないで生きてきたようなあんな人には。





2010.05.29






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