駄々をこねるギンをやっとの思いで追い払うと、さっきまでの騒がしさが嘘のように隊首室に静寂が訪れた。
ぎしりと音をたてる背もたれに身体を預け、ぼんやりと天井を眺める。





なんや最近ええとこで邪魔されてばっかしやな。この間かてひよ里のアホのせいでエライ目に遭うたし…。
ふと、気配を感じて視線を下げれば白い襖にゆらりと人影が映る。





『誰や?』



姿の見えない相手にそう声をかけるが返事はない。けれど実際のところその人物が誰かなどということは解りきっていた。



『…まァ、ええわ。入り』



無言のまま部屋の前で立ち尽くしている人物を放っておく訳にもいかず渋々中へ招き入れた。







『何遍も言うたやろ、用もあらへんのにこないなとこ来とったらアカンて』


『それは平子隊長がちゃんとお話を聞いて下さらないから…』


『話なら聞いたはずや。ええ加減にせんとローズに怒られんで、皐チャン』





もう何回目やろか、このやりとり。
考えてみればずっと同じことの繰り返し。諭すように目の前の彼女をじっと見据えれば視線を逸らされる。





『わたし、本当に隊長のことが…』


『どんだけ言われても答えは同じやで』


『…やっぱり小春木副隊長、なんですか…』


『だったらどうなん?それはまた別の話やろ』



可哀想やけどそろそろ解ってもらわんとコッチも困んねん。





『なァ、もうここにも出入りするん止めえ。周りにも変に思われるで』


『そんな…。ずっと、ずっと昔から想ってたんです。簡単に諦められません…!』


『昔から?』





何やねん、それ…。
まるでずーっと前に会うたことあるみたいな言い方やんか。



過去の記憶を手繰り寄せてみるが、いくら考えてみても彼女との接点は全く思い当たらなかった。






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