『起きてたの?』


『少し前にな』


『ごめん、起こしちゃって…』


『別に構へん。むしろ寝込み襲ってくれても良かったんやけどなァ』



意地悪な顔でにたりと笑って。事も無げにそんなことを言うものだから、心音が一気に加速していく。



『昼間っから冗談言わないでよ』


『結構本気やったりするんやけど』



ぐいっと強い力に引っ張られて、椅子に座る真子の膝の上にすとんと座らされる。
慌てて飛び降りようとしたけれど、お腹に回された彼の腕によってそれは阻まれた。





『ちょっと、こんなとこ誰かに見られたら…』


『誰も来えへんて。惣右介は外出とるし、ギンのヤツにはサボっとった罰でたっぷり仕事押し付けたったし』



何日かぶりに感じた真子の温もりと感触。肩の上にだらりと顎を預けてわざと耳の近くで囁いてくるこの人は、こうやってこっちの反応を楽しんでいるに決まってる。




『アイツ、カヤに変なことしとらんやろな』


『ギンのこと?大丈夫だよ』



確かにあれからも何度か言いよってくることはあったけど、上手くかわしているうちに最近ではめっきり大人しくなった。
今日だってお茶を呑みながらお喋りに付き合ってそれでお終い。





『きっと少し大人の真似事がしてみたかっただけじゃない?そういう年頃でしょ』


『…案外、俺のがガキかもしれんな』


『どうして?』



不思議に思って振り返ると、その先で真子の瞳が一瞬揺らいだ。
きっとわたしは真子が時折見せるこういう瞬間と、全く覇気の感じられない普段とのギャプにまんまとはめられているに違いない。そうしてどんどんこの人を好きになる。





『オマエにくっつくギンにめっちゃ腹立ってん』


『しん…じ、』


『ええ大人が情けないやろ?でもなァ』



そんぐらいマジやねんで。
吸い寄せられるように重なった唇から注ぎ込まれる熱い感触に、意識が朦朧とした。
もっとこの人に触れていたい、触れてほしい、そんなことを思っている自分に正直少し驚いた。



『しんじっ、どこ…触って…』


『ええから黙っとき』


『んんっ、ちょっと…』


『痛っ!何やねん、殴ることないやろ』


『調子に乗らないでよ、バ…』



必死の抵抗も、反論の言葉も、深い深い口付けに丸ごと飲み込まれて。
もうどうにでもなればいい、真子とならどうなったって、そんな思いが頭を支配し始めていた。








『ずるいわぁ、自分ばっか楽しんで』



聞こえてくるはずのない声に瞬間的に身体が強ばる。空耳であって欲しと必死に願うも、その願いは見事に打ち砕かれた。





『ボクも混ぜてーや』





2010.05.14






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