まったく慌てて来て正解やったわ。
ホンマに油断ならんやっちゃ。



『あらら、平子隊長やないですか。これはご機嫌うるわしゅう』


『全然うるわしゅうないわ』


『怖い顔しはってどうかされましたの?』


『誰のせいや思てんねん』



じろりと見下ろせば、汐らしい表情で首を傾げながら子供っぽさを最大限にアピール。
そないな顔したって通用せえへん。可愛えなんて思わへんで、俺は。





『そんなことよりも首根っこ掴むんやめてくれはりません?ボク、猫やないんやから』


『もう悪させえへんか?』


『悪さなんてしてへんよ。なァ、カヤちゃん』


『えっと、』


『見てみィ、困っとるやないけ。アカンやろ、余所の隊来て迷惑かけたら』



仕方なく掴んでいた襟を離してやると、また性懲りもなくカヤに抱き付くギンに呆気にとられる。





『カヤちゃん、迷惑やったん…?』


『うーん…。真子、わたしなら大丈夫だから』



大丈夫な訳あらへんやろ。明らかに困った顔しとるやんか。っちゅーかオマエが大丈夫でもこの俺が大丈夫やあらへんわ。
あのガキ、調子こいてカヤのあんなとこ触りよって…。俺でもまだ触ったことないねんぞ。





『ええから早よこっちこい、ギン』



込み上げてくる怒りを表に出さないよう必死に堪えながら、再びギンをカヤから引き剥がした。
まったく大人っちゅーのも楽やないわ。





『何やねん、もー。乱暴やなァ、もう少し優しくしてや』


『ホンマに口だけは達者やな。優しくして欲しかったら言うこと聞け。羅武、これ書類な』


『おう、わざわざありがとな』



じたばたと無駄な抵抗を見せるギンを軽々と小脇に抱えて部屋を出た。



『離してや、まだここに居りたい』


『やかましい、じっとせえ』


『あー。せや、カヤちゃん』





真子に抱えられぶらりと垂れ下がった身体のまま、ギンが顔だけをこちらに向けた。



『どうしたの?』


『さっきのことちゃんと考えとってな。ボクの彼女さんになってくれるいう話』


『オマエは一体歳いくつやねん…。済まんかったな、邪魔したわ』


『ほな愛川隊長、カヤちゃん、さいなら』



心底呆れた顔をした真子とは対象的に、相変わらず笑みを絶やすことのない少年はひらひらと手を振りながら襖の向こうへと消えていった。





『真子も大変だな』


『そ、そうだね…』






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