『羅武…さっきから一体何なの?』


『や、別に何でもねえよ』





朝からずっと自分を見る羅武の視線に妙な違和感を感じていた。慌てて誤魔化しているみたいだけれど、その態度は明らかに挙動不審だった。





『セクハラ発覚。今度の女性死神協会の定例会議で議題にしてやるから』


『ちょ、ちょっと待てよ!どこがセクハラなんだよ…』


『朝からずっと厭らしい目でわたしのこと見てる』


『そんな目してねえって。大体真子の女にそんなことしたらアイツに殺され…あ…、』



途中まで言い掛けて、あからさまにしまったという顔をして口をつぐんだ。





『…なんで急にそんなこと言うの?』



まさかとは思うけれど朝からの羅武の態度を思えば、頭の中には嫌な予感ばかりが巡る。けれど真子やひよ里がそんなことをペラペラ話すとも思えない。





『いや、なんて言えばいいか…済まん、見ちまったんだ…』


『見たって何を?』


『昨日の夜…』



頭が真っ白になった。
昨日の夜、あの時の出来事を全部羅武に見られていたとしたら。そう考えたら身体中の血液が一気に頭に向かって逆流していくような、そんな感覚に陥った。





『な、なんで…!? 昨日は用があるからって早く帰ったじゃない!』


『その用が思いの外早く片付いちまってよ。それでまだお前が残ってるかもしれねえと思って顔出そうとしたら…』


『信じられない…』


『ま、まあいいじゃねえか。めでてえことなんだし。なっ!』



ばしっと力任せに背中を叩かれて身体がよろけそうになった。まったくただでさえ馬鹿力なんだからもう少し加減っていうものを考えて欲しい。





『と、とにかく!今はまだ誰にも言わないでよ』


『あのなぁ…、とっくに他の奴らも気付いてると思うぜ?』


『うそ…』


『それに気付いてなかったのはお前だけかもな』







『あーそれからもう一つ。お前すぐに一人で悩む癖があるだろ。ちゃんと人を頼れ』





何のために俺達がいると思ってんだ。
はっきりとは言わないけど羅武の気遣いがじわりと心に染みていく。真子の気持ちを知って嬉しい反面、まだ全てのことがこれで解決した訳じゃないんだと改めて感じた。






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