『ん、何やこの音』



突然辺りに響き渡るように聞こえてきた地鳴りのような音。それに気付いた真子が顔を上げて周囲を見回す。



『これって…』


『心当たりあるんかいな』



心当たりがあるも何も。
いつも聞きなれているこの音を解らないはずがない。



『ねぇ真子、わたし達離れたほうがいい気がする…』


『何でやねん。せっかく捕まえたのにもう逃げる気満々かっ』


『や、そういうことじゃなくて…。このままだと色々とまずいっていうか』


『離すか、ボケ』



必死に真子の身体を押し返そうとするが、頑として腕を解こうとしない。



『ほんとにまずいって…!』


『だから何がやねん』










『カヤ、帰れるかァ!?』



何の躊躇もなく部屋に飛び込んできたのは案の定と言うべき人物だった。





『げっ!ひよ里!?』


『ひ、ひよ里…。お疲れ様…』



目の前に広がる予想もしていなかった光景に、ひよ里の周りの空気が凍りついた。





『あー、ウチ部屋間違えてもうたわー…』


『…』


『……』



不自然過ぎる程棒読みな台詞を吐いて背を向けるひよ里。
言葉を失った真子とわたしが無言で見送る中、すーっと静かに音をたてて襖が閉まっていく。









『…って何でやねん、コラァ!
何でウチが一人でのり突っ込みせなアカンねんっ!!!』





ゴッ!



ズッダダァン!!





一瞬だった。
振り返ったひよ里の飛び蹴りが真子の顔面に命中。鈍い音と共に視界から真子が消えたと思ったら、次の瞬間には中庭で蹲る彼の姿があった。





『し、真子っ!大丈夫!?』


『い、いきなり何さらすんじゃ!ボケェ!!』


『うっさいわ、謝らへんぞ!!この変態がァ!!! 』


『変態ちゃうわ!』


『変態やんけ!ここどこや思てんねん!!教えたるわ、隊首室や!!!こないなとこでイチャコラしゃーがって…ぺたんこな顔してええ度胸しとんなァ、あー!?』


『何やそれ、顔関係ないやろ…。無茶苦茶言いなや』



鼻を押さえてふらふら立ち上がる真子に駆け寄ろうとすると、ひよ里に手首を掴まれた。



『帰んでェ!カヤ』


『え、でも…』


『あんなヤツなァ、ほっとけばええねん!見てみい、あの顔!!腹たつわ〜〜〜!!!』



真子の子供みたいな挑発に乗って今にも飛び掛かりそうなひよ里を必死に宥めた。
いつもと変わらないこの光景に不謹慎にも笑ってしまいそうになるのを懸命にこらえながら。





『ええから行くで!』


『あ、ちょっと…!』



結局そのまま無理矢理ひよ里に連れ出されてしまった。






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