『オマエ、俺があの子とどうにかなっとると思てんねやろ?』


『…思ってる』



あんな場面を見せられて、しかも頻繁に真子の所に通っているなんて話を聞かされたら尚更だ。





『誤解や、そもそも好きでもない女に手ェ出す訳ないやんか』


『でもあの夜の真子、ヘラヘラしてた』


『悪かったなァ、元々こーゆう顔やねん…』



そう言われて改めて横にいる真子の顔を見てみれば、相変わらずのゆるい表情。


真剣なんだかふざけてるんだか解らない目付きに、中途半端に開かれた口元から覗く白い歯。見れば見るほどヘラヘラしているようにしか見えない。






『ふふっ…』


『な…、オマエっ!今、人の顔見て笑ったやろ!?』


『わ、笑ってないよ!』


『どう見たって笑っとったやろ!なんちゅー失礼なヤツや!』



半分身体を起こした真子にぎゅうっと頬を掴まれて。
歪んだ私の顔を見て今度は彼がにたりと笑う。



『ちょっと…、痛い…』


『知るか、お仕置きや』



何か凄く久々な気がする。
真子とのこの距離感。
皆と呑んだあの夜が大して昔のことでもないのに、酷く懐かしく思えた。



『私だって一応女なんだから。少しは優しく扱ってよね』


『女らしいとこなんか微塵もないやんけ』


『そりゃ、南師さんみたいに可愛くはないけど』



ほんの冗談のつもりだった。
なのに急に真剣な顔で見つめてきたりするから、こっちの心の準備が間に合わない。いつもふざけてばかりなのに唐突にそんな顔をするから質が悪い。





『何でその名前が出てくんねん。そのことは今関係ないやろ』


『…だけど真子がどう思ってようと、彼女が好きなのは、』


『あの子がどういうつもりで俺に近付いとるかなんて知らん』





俺は自分の好きな女にしか興味ないねや。





するり、伸びてきた真子の指先に手の甲を撫でられて、そのまま優しく包み込まれた。





『お茶…、そうだ!お茶淹れるね、すっかり忘れてた…』



慌てて手を引っ込めると、取って付けたような理由でわざとらしく立ち上がって。





一歩踏み出した所で背中に感じたのは明らかに真子の体温。





『…しん…じ?』



前に回された腕に力が籠もって二人の間の距離が更に縮まる。



『逃げんなや』


『別に逃げてなんか…』



真子の吐息が呼吸に合わせて首筋を微かに撫でる。視界の端っこで輝くような金糸が美しく揺れていた。



『はっきり言うて周りにどう思われようが構わへん。しゃーけどカヤだけには勘違いされたら困んねん』


『何それ…、どういう意味?』





まるでふわふわと宙に浮いているような、そんな錯覚さえ覚えた。背中越しの真子に体重を預けていなかったら今にも崩れ落ちそうで。


そんな感覚に陥りながら耳の中に溶け込んできた台詞は、長い間待ち焦がれた言葉。





『好きや』





2010.04.05






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