思うようにはかどらない仕事を何とか片付けて、帰る前に一息つこうと縁側に出てみることにした。



ひよ里とよくお茶を呑むその場所は、射し込んでくる日差しも暖かでそこから眺める中庭も結構お気に入りだった。
今日のように天気が良かった日の夜は、雲一つなく夜空に浮かぶ星々がはっきり見える。



周囲に誰も居ないのをいいことに、縁側から外に足を投げ出すとそのまま仰向けに寝転がり上空を見上げた。
どこまでも無限に続く空に吸い込まれてしまいそうな気さえして。解放感に包まれたまま瞼を閉じた。







どれぐらいそうしていただろうか。
誰かの気配が、遠退きそうになった意識を呼び覚ます。





『こないなとこで寝とったら風邪ひくで』



目を開ければ月の光に照らされてきらきらと光る黄金色の長髪が、風に揺られて靡いていた。






『…羅武なら帰ったよ』



久々にちゃんと顔を合わせたというのに第一声がこれなんて。しかも堂々と足を投げ出して寝転がったまま。
本当に可愛げがない女だ。






『解っとる』



じゃあ何しに来たの?そんな愚問を投げ掛けるより先に真子が何も言わず隣に寝転がる。



少しの間お互い無言で空を眺めていた。





『カヤに話があんねん』


『私に?』



本当は私だって話したいことがいっぱいある。それに聞きたいことも。





『オマエ、最近ずっと俺のこと避けとるやろ?』


『別に避けてなんかないよ』


『嘘やな。うちの隊にも全然寄り付かへんようになったし』


『そ、それは…』


『大体なァ、この間隊首会が終った後かてあからさまに逃げてったやんけ』


『…バレてないと思ってた』


『甘いわ、ボケ』





『…て、俺が言いたいんはそういうこととちゃうねん』



目の前の真子が戸惑い気味に頭を掻いている。
私だってこんなことを話したい訳じゃない。けれど単刀直入に聞くのも気が引けて、実際のところ何から切り出していいのかもよく解らなかった。







『この前の夜のことやけど』



話を切り出した真子のその言葉は、いつもとは違う低い声色で。



速く打ち付ける鼓動を何とか落ち着けたくて、一度小さく息を飲み込んだ。






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