あの夜からすでに1週間が経とうとしている。気にはなっていたものの、最近忙しくて真子と顔を合わせることもなかった。
あれからあの二人はどうなったんだろう。



馬鹿げたことをと自分自身に嫌気がさしながらも、どうしても考えずにはいられなかった。あの時の彼女の目を思い出す度に、ただただ不安だけが募っていった。






とある日の夜、残務処理に没頭していたらすっかり帰る時間が遅くなってしまった。
足早に廷内を駆け抜けていると、今だに灯りの漏れている部屋が目にとまる。





あの部屋は…。





真子、まだ残ってたんだ。





―――‐‐‐





『どうしよう…』





そう呟きながら先刻からもうこの場所をどれだけ往復しているだろうか。
こんな所を他の誰かに見られでもしていたら、きっと頭がおかしくなってしまったのだと思われかねない。



襖の向こうにいるであろう真子に声をかけるかどうか迷いながら、五番隊隊首室から少し離れた場所で歩みを止めた。
そして一向に決断出来ないままその場所から全く動けず、刻々と時間だけが過ぎていく。





何やってるんだろ、私…。





どう頑張ってみても自分の中で余計な感情が邪魔をする。真子の前に立つと自分じゃいられなくなる気がして。
少し前までの私なら、きっと何も臆することなくあの部屋の襖を開けて真子に声をかけていた。






(お疲れ様、まだ残ってたんだ?)


(カヤ、ちょうどええトコに来たやんけ)


(何、その死にそうな顔)


(死にそうやのうてもう死んどる…。書類片付けるん手伝うてやー、今日中に終わらへん…)


(もー仕方ないなぁ、今度奢ってもらうからね)


(…そういう意地汚いこと言わへんかったら、可愛えんやけどなァ)


(何か言った?)


(何も言うてへんで)






そう言っていつものように、笑いながら戯れ合って。そんな些細なことですら楽しくて仕方なかった。
けれどたったそれだけのことが、今はこんなにも難しく思える。





深く考え過ぎなんだ、きっと。
余計なこと考えなくていい、今までと同じでいいじゃない。





自らの気持ちを落ち着けるように、ふっと呼吸を吐き出して。
意を決して顔を上げた。







『あ…』



一歩踏み出しかけたその時、人影に気付いて再び動きを止めた。
薄暗い廊下をゆっくりと歩くその人物は、隊首室前まで来るとぴたりと立ち止まった。部屋から漏れる灯りが、その周辺を鮮明に浮かび上がらせる。



それは藍染さんでも、五番隊の他の隊士でもなく。






『南師さん…』



そうであって欲しくないと心から願っても、目の前の事実は決して逃れようのないものだった






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