『はァッ!?で結局、そないどこの馬の骨とも解らんようなヤツにハゲとられて、のこのこ帰ってきよったんか!?』


『…馬の骨じゃないよ…。
 この間ローズんとこの七席に昇進した、』


『そんなんどうだってええっちゅーねん!!』


『ご、ごめん…』



耳元でキンキン響く怒声に身が竦む。
昨晩のことを詮索されるのが嫌でずっとこそこそと逃げ回っていたが、結局ひよ里とリサに捕まってしまった。



『あたしはあの後てっきりヤッとるモンやと思っとったのに…とんだ期待外れや。真子、ホンマに大事なモンついとるんか?』


『何考えとんねん…オマエら。ホンマ、ハゲや!』



心底残念そうに溜め息をこぼすリサと、呆れたように睨み付けてくるひよ里。これじゃあまるでこっちが悪者みたいだ。





『せっかくうちが協力したったのに、何にもならんやんけ』


『酔い潰れて寝てただけのくせに…』


『何やとっ!』


『何でもありません…』



自分でも本当に何やってるんだろうと思う。情けない奴だってことも十分過ぎるぐらい解っている。この二人が私のことを、自分のことのように心配してくれているということも。





『大体、その南師っちゅーガキは何やねん。ポッと出のくせしゃーがって』


『憧れとる男がおるって言っとったけど、あれ真子のことなんか?』



昨日の夜、あの瞬間私の中で確信に変わった紛れもない事実。ただ彼女から直接聞いた訳ではない以上、今ここで言うべきではないと思った。





『どうなんだろう。まだ解んない』


『とにかく、今度なんかあったらソイツんことシバいたるわ』


『ひよ里が言うとほんとっぽく聞こえるから、そういう冗談止めたほうがいいよ?』


『うちはホンキや!!』



今は休憩時間外。いくら人気のない場所を選んで話しているとはいえ、少し離れたところでは他の隊士達が忙しなく行き交っていた。


声を押し殺して会話しているつもりでも、時々発せられるひよ里の大声のせいで周囲の視線がこちらに注がれているように思えて気が気でない。





『ねぇ、もうそろそろ戻ったほうが良くない?』


『そうやね、五月蝿い隊長もおることやし』


『何でや!うちはまだ説教したりひん!!』


『ガキみたいなこと言うな、アホ』


『嫌やっ、コラ、放せ!リサ!!』



不満そうに暴れるひよ里の首根っこをリサが掴んでズルズルと引きずっていく。





『ごめんね、リサもひよ里も。せっかく気利かせてくれたのに』


『ええって、気にすんな。余計なおせっかいや。そんなことより…』



珍しくリサが言葉を詰まらせる。彼女の言いたいことはすぐに察しがついた。



『あの南師って子、気ィ付けや。何か気になるわ』


『うん…』





解ってる。
でも今はまだ信じたくない気持ちでいっぱいだった。






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