『お二人はこれからどこかへ行かれるんですか?』


『私達は…』



ちらりと真子に目配せをする。
すると彼も私の様子を窺うように視線を送りながら、しょうがないとでも言いたげにすっと目を細めた。



『俺らはさっきまで皆で呑んどってこれから帰るとこやってん』



先に口を開いたのは真子のほうだった。さすがにこれから二人で彼の部屋に行こうとしていたなんて言えない。



『そうだったんですね。もし宜しければご一緒させて頂けませんか?私もこっちの方向なんです』


『真子、南師さんのこと送ってあげなよ。可愛い女の子が夜道の一人歩きなんて危ないし』



…何言ってるんだろう、私。



表向きは何でもないように振る舞まうのに必死だった。
本当はそんな気のきいた優しいこと、これっぽっちも思っていないはずなのに。葛藤の中で馬鹿みたいに揺さ振られて掻き乱されて。そんなただ恋する女の子のようになっている自分に正直驚いた。



『…カヤはどうすんねん』


『私は逆方向だから。これでも副隊長だよ?一人で大丈夫』



不満そうな真子の視線を痛いぐらいに浴びながら、精一杯の強がり。





本当はもっと真子と一緒にいたかったけど。





『まァ、カヤやったら相手の方が逃げてきそうやな』


『五月蝿い。明日も早いんだから寝坊しないようにね!』



ちょっと気を抜いたら今の気持ちが全部顔に出てしまいそうで。込み上げてくるもやもやした気分を振り払うように、力一杯猫背をひっぱたいてやった。



『痛ッァ!!
 …ったくオマエは〜…』


『ほら、早く行ったら?』


『解っとるわ。ほんなら行こか』


『はいっ』





『あー、そうや』



南師さんを促して一緒に歩き出したものの、何かを思い出したように立ち止まる。



『オマエも一応女なんやし、気ィ付けて帰れや』


『ちょ、ちょっと…』



振り向き様に頭をぐしゃぐしゃにされて。怒って彼の顔を見上げたなら、ほんの一瞬だったけれど見たことのないような優しい視線にドキっとさせられる。



『また明日な、カヤ』



次に見たときには、もういつものふざけた表情に戻っていた。





何でそんな顔するの…?








遠くなっていく二人の背中を見送りながら、私の代わりに真子の隣を歩く南師さんを嫌でも目で追ってしまう。
見れば見る程その後ろ姿が、お似合いな恋人同士に見えてきて。くだらないことを考えている自分の思考にうんざりした。








彼女の真子を見つめる視線が、普通のものではないと感じたのはその時だった。
それは明らかに特別な人を見ているかのような熱の籠もったもので。



(ここまで頑張ってこれたのは、憧れの人に少しでも近付きたいから…)




あの時のローズの言葉と、真っ赤になって恥じらう彼女の姿が走馬灯のように頭の中を駆け抜けた。




まさか…ね…。




そんな不安が次の瞬間、確信へと変わる。






また、あの目…。
真子と肩を並べて歩きながら振り返った彼女の瞳。それは初めて会ったあの日、別れ際に自分に向けられていたものと同じだった。







真子のことだったんだ。
そうであって欲しくないと願えば願う程胸の奥が締め付けられた。いい知れぬ不安に包まれたまま、しばらくその場から動くことが出来なかった。






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