何だろう。



目の前に立つ彼女はつい先日、初めて会ったときと同じ柔らかな表情。それなのに何かが、どこかが違う。





『南師さんこそ、こんな遅くにどうしたの?』



死神とはいえ一人の女が何の理由もなしにこんな真夜中に出歩くとはとうてい思えない。



『家に持ち帰ろうとしていた仕事を隊舎に置き忘れてしまって。それを取りに戻った帰りなんです』


『律儀やなァ、明日で良かったやんけ』


『南師さんは真子みたいな不真面目とは違うんだから一緒にしないの』



軽い調子でへらへら笑う真子を肘で軽く小突いたら、オマエも人ンこと言えへんやろと額をぺしっと叩かれた。



『痛っ、ちょっと何すんの!?』


『お返しじゃ、ボケ』



さっきまでの少しいい雰囲気なんてとっくにどこかへ行ってしまって。



結局いつもと同じやりとりが始まったところで、周囲の空気がふっと揺れ動いたような気がした。それは全身を逆撫でするような嫌な感じだった。



気になって辺りを見渡すと、ただ無言のままこちらをじっと見据える眼光に一瞬息を呑む。彼女の真っ直ぐな視線は私と真子を確実に捕えていた。感情も何も含まれていない薄っぺらな表情で。



今、自分達の前にいるのは本当にあの南師さんなんだろうか?
そんな疑問すら頭を過りかけた時また空気の流れが変わった。





『こんな時間にお二人して一緒にいらっしゃるということは、平子隊長と小春木副隊長はそういうご関係なんですか?』


『そ、そういう関係って何?』


『大丈夫ですよ?私、誰にも言ったりしません』


『や、違うって。ほんとに全然っ』



途端にさっき真子が何か言い掛けていたことを思い出し、触れられていた方の頬が熱をもつ。誤魔化すように慌てて両手をぶんぶん振った。





『オマエ、そない全否定せんでもええやろ。俺かてそれなりに傷付くで』


『意外。真子でも傷付くんだ』


『ホンマにコイツ酷い女やろ?俺、いーっつも苛められてんねん』


真子が彼女に話をふると、その表情はより一層華やかなものになり瞳をきらきらと輝かせる。小さな肩を震わせてくすくすと笑う姿はまだあどけなさが残る少女のようだ。



『やっぱり平子隊長は楽しい方ですね』



やっぱりさっき別人みたいに見えたのは、きっと私の気のせいだ。
こんな風に笑える子があんなに冷たい表情出来る訳がない。






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