『よく考えたら真子の部屋って初めて行くよね』


『そういや、そうやなァ』



なんかちょっと緊張する。
少しふざけたように笑うカヤから目が離せなかった。


その笑顔がどんな意味を持つのかは今の俺には解らへんけど、願わくば照れ隠しであって欲しいと密かに思った。





『私で何人目の女?部屋に呼ぶの』


『あのなァ、人をそこら辺の軽い男と一緒にしなや』


『真子はそこら辺の男とは違うんだ?』


『当たり前や。何も考えんと女を部屋に呼ぶようなヤツとちゃうで、俺は』



また隣でふわりと咲く笑顔。
昔っから思っとったけど、カヤはホンマによう笑う女や。
愉しい時や嬉しい時、辛いときかて周囲に心配かけまいと強がって笑っとる。



きっとコイツの周りのヤツらはそんな彼女が大好きで、自分もそのうちの一人やった。
けど、いつからか俺には別の感情が芽生えとって。その笑顔をカヤの側でずっと守ってやりたいと思うようになっとった。





『オマエこそええんか? 好きな男おんねやろ?』


『え?』


『さっきのひよ里の寝言、あれホンマのことやんな?』


『あれは…』



明らかに困ったように視線を泳がせて。必死に考えをめぐらせて言葉を選んでいるように見えた。




『私ね、』
『カヤ』



自分で聞いたくせして、気付いたらカヤの言葉を遮っとった。単に彼女の口から他の男の名前を聞くんが怖かっただけかもしれへん。



伸ばした手で頬に触れたなら、ぴくんと身を竦めた。震えるその肌はこのまま触れ続けたら、融けてなくなってしまいそうで。





『真子…?』


『俺、オマエんこと』







『こんばんわ』



突然どこからか聞こえてきた第三者の声。
その瞬間どちらからともなく二人の距離がすっと離れていく。さっきまで確かに触れていた筈なのに、少しずつ失われていく彼女の温度がもどかしい。



『こんな所でお会いするなんて奇遇ですね』



暗闇の中から現れた人物、それは。








『南師さん?』


『南師て…、そういや昨日挨拶に来とったローズんとこの…』


『こんな時間にお二人揃ってどうされたんですか?』





きっと微笑んでいるであろう彼女の表情は闇の中に融合して、こちらからは窺い知ることは出来なかった。





2010.02.17






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