『アイツのおかげで、ええカンジで酔うとったのにすっかりさめてもうたわ』 ひよ里を送り届けて、カヤと一緒に部屋を出た。 食後のいい運動になったでしょ。そう言ってコイツは俺の隣でころころと笑っていた。 結局一番肝心なトコ、聞けずじまいやったし。胸ン中がモヤモヤしとって、このまんまじゃなーんかスッキリせえへん。 『オマエ、これから暇か?』 『暇も何も、もう遅いしこれから帰って寝るだけだけど?』 何を当然のことを聞くんだと、不思議そうな表情で真子を見つめる。 『良かったら…、俺ンとこで呑みなおさへん?』 『今から?』 『そうや』 『二人で?』 『他に誰がおんねん』 少しの間考えるようにしていたカヤが、ちらりとこちらに視線を向ける。 自分とは大分身長差がある彼女に、すぐ近くから見上げられた時のあの上目遣いはかなり心臓に悪い。おそらく本人はその威力にはまったく気付いていないだろうが。 『…もしかして、それ口説いてる?』 『もしかせんでも口説いとるつもりやで』 『ようやく私の魅力に気付いたんだ』 『オマエも俺の魅力に早よ気付かんとそのうち後悔すんで』 『どの辺が魅力的な訳?』 『アホ抜かせ。溢れ出とるやろ』 そんな風に表向きはどうしようもないことを言い合って。 それでも心臓はアホみたいに暴れとる。 今なら普段なかなか口に出来ひんことも、何でも言えそうな気がした。 カヤの雰囲気もいつもと違うし、お互いさっきまでの酒がまだ残っとるっちゅーことやろか。 それが酒の力の所為やろうが、今はそれでええと思った。 コイツと一緒におれるなら。 『行くで』 『うん』 いつもならここで生意気な言葉の一つでも返ってくる筈なのに、今夜はそれもなく。 黙って自分の隣を歩く彼女を視界の端にとらえながら、性懲りもなく心拍数が上がっていくのを感じた。 ← | → しおり |