『は、はいっ!』



突然大声で名前を呼ばれて身体がびくりと跳ね上がった。
いつの間に目を醒ましたのかと驚いてひよ里の方を見れば、その表情は目が据わっていてどう見ても正気とは思えない。





『何やコイツ、寝呆けとんのか?』


『よく解んないけど…多分?』


『…ったく、世話のやけるヤツやな』



気にもせず歩き始めると再びひよ里が口を開き、ぽつりぽつりと何やら呟きだす。





『…まったく、いつまでもたくさして…



 好きなら…、さっさと言って……ま…え…』



『え…?』



頭はがっくりと下に垂れ下がり、真子が歩く振動でぶらぶらと揺れている。



明らかに寝呆けているんだろうけど…、まさかね。まさかとは思うけど、今この場でそれはまずいんじゃない?





『とっとと…、ハゲ…


 ハゲ……』


『ちょっと、ひよ里…!その続きは、もういいんじゃない!?』



ひやりとしたものが背中を一筋つたう。掌にもじっとりと汗が滲んでいるのが解る。急に黙り込んでしまった真子がどんな顔をしてそれを聞いているのかと考えると、怖くてまともに彼の方が見れない。





『…ハゲ……シ…ン…』


『ひよ里、落ち着いて…』


『アホか。寝言に落ち着いても何もないやろ』



『…シン…………ジ』
『あーっ!!!!!』



『うっさいなァ…。オマエ、声でか過ぎやぞ…』



真子が顔を歪めてじろりとこっちを睨んでる。無理もない。私だって何年ぶりだろうっていうぐらい久々にあんな大声を出した。





『ここ…!ひよ里の部屋だから…』



焦るあまりひよ里の自室前まで来ていたことすら、全く気付いていなかった。





『布団敷いてくるから、ちょっとここで待っててね』



玄関先に二人を残して慌ててひよ里の部屋に上がり込んだ。





『…上手いこと誤魔化されてしもたやんけ…。オイ、ひよ里。さっきの続き早よ言えやコラ』



その言葉がひよ里に届く訳もなく。気持ち良さそうな寝息だけが背中から聞こえてくる。



ったく、何の悩みもあらへんような顔しゃーがって。



『何やねん。使えんヤツやのォ、コイツ』



そう言ったら、後ろから思いっ切り髪を引っ張られた。



『痛ァッ!!』



な、何でやねん!
思いっきし爆睡しとるくせに…。コイツ、怖っ。





それにしてもアイツのあの慌てっぷり…、やっぱし好きな男おるんやんな?



誰やねん。
めっちゃ気になるやんけ。



くそっ、ひよ里のアホ。
また引っ張られたらかなわないと、今度は心の中でこっそりとそう呟いた。






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