『何の騒ぎだい?』


背後からかけられた声に、はっと我に返った。





『あ…、ローズ。今の聞こえちゃってた…?』



苦笑いを浮かべている彼に、誤魔化すように引きつった笑顔を返す。



『そこら中に響き渡ってたよ。カヤはいつも元気がいいね』


『だってね、真子がっ…!』



勢いよく反対側の渡り廊下を指差すと、にたりと小馬鹿にしたような表情をこちらに向けている真子。それはさながら、「はしたないとこ見られてもうたなァ」とでも言いたげだ。





な、何なの…あの顔は。
むかつく!





『ほな俺もう行くわ。またなァー』



ひらり羽織を翻し背を向けた真子は、「あーそうや」と思い出したように去り際こちらを振り返る。





『ちゃんと仕事せえよ、カヤ』



嫌味な台詞な筈なのに、真子が言えば全く別の言葉になる。それがいつも私の心を動かしているだなんて、きっと貴方は知らないんだよね。





『もうっ…』


『はは、彼も相変わらずだね』


『真子と夫婦漫才やっとったとこや』


『リサ、誤解招くようなこと言わないで!』



ただでさえ今日一日で色々な人にばれてたって分かったのに。これでローズにも知れたりしたら…。





『それよりローズ、こんなとこでどうしたの?』


慌てて話題を変えてみる。するとついさっきまで全く気付かなかったが、彼の後ろに遠慮がちに佇む一人の死神の姿が視界に入った。






『あれ…?後ろの子は?』



見た事のない顔だなと思った。
小柄で華奢でいかにも女の子という感じの彼女は、私が覗き込むとぴくっと肩を震わせてこちらに会釈を向ける。



あ、可愛い子だなぁ。
こういう子が男心を擽るんだよね、きっと。





『見た事ない顔やね。ローズんとこの子?』



上から下まで舐めるように眺めるリサの視線に耐えかねたのか、彼女は再びローズの背中に隠れてしまった。




『リサ、目怖いよ…。怯えてるじゃない』


『何でや、ただ品定めしとるだけやないの。なかなかあたし好みや』



だからその品定めっていうのが間違ってるから。



でもローズの隊にこんな子いたなんて、全然知らなかった。まぁ他の隊の隊士一人一人まで、名前と顔を覚えようと思ったらかなり無理があるだろうけど。





ほんのり栗色がかった肩まである髪がふわり風に揺れている。繊細という言葉がいかにもぴったり合うその女性隊士は、くるりとした瞳と長い睫毛がとても印象的だった。





2010.01.18






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