室内に漂う静けさに自分が押し潰されてしまいそうな気がした。そんな重苦しい空気に反して部屋の外からは、この異常事態を受けて浮き足立った隊士達の足音がより一層大きなものとなって聞こえてくる。どうしていいのか分からず右往左往する者達の声があちらこちらで飛び交っていた。






『じゃ、行ってくるわ』



まるでご近所に遊びにでも行くような声をあげてよっこらしょ、と羅武が重い腰を上げた。ぎしりと軋む椅子の音が静か過ぎる室内にやけに大きく響く。



『羅武…』


『ばーか、んな顔すんな。あいつらなら大丈夫だ』



ごつごつした掌がぐしゃりと豪快に髪を撫でる。この大きな手がいつもならどんな悩みでも簡単に吹き飛ばしてくれるのに、どういう訳か今はただただ不安が募る一方だった。



『そんな情けない顔してるとまた真子に馬鹿にされるぜ?』


『…』



言葉でいくら取り繕おうとしてもそんなくだらない強がりはきっとこの人には見抜かれているに決まってる。そんなわたしはこれからどんな危険なことが待ち受けているか知れない隊長に気の効いた言葉の一つもかけてあげられない最低な部下だ。そればかりかこんな不甲斐ない自分が逆に気を遣わせてしまっているのだから。



『……大丈夫、…だよね?』



自分自身に言い聞かせるようにそっと問い掛ける。その答えが今すぐには出ないことは分かっていたけれど、それでも言葉にせずにはいられなかった。



『ああ、大丈夫だ』



頭の上に置かれたままだった手がぽんぽんと二度三度優しく触れた。羅武のその言葉でどれだけか救われたような気がした。




あの二人なら。




きっと何食わぬ顔をして戻ってくるに違いない。そうしてまたいつもと変わらない毎日が始まるんだ。



『ま、すぐ戻って来るさ』


『頼りにしてるよ、隊長さん』


『おう、任せとけ』


『いってらっしゃい』



ぽん、と背中を叩いて羅武を送り出すと一人ぼっちになった隊首室に静寂が訪れる。
取り残された寂しさからなのか、こんな時に何も出来ない自分の無力さを悔いているのか。羅武の言葉でなんとか落ち着かせようとしていた気持ちがまたにわかにざわつき始めるのを感じた。










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