からんからん、と辺りに軽快に響く乾いた下駄の音。


隊長がひとたび道を歩けばその場の空気が一変する。ついさっきまで雑談しながら堂々と真ん中を歩いていた隊士達も、慌てて脇に避け深々と一礼する。誰に言われた訳でもない、護廷十三隊において隊長というのはそれほど特別な存在であって別格なのだ。





『おーす、羅武。おはようさん』


『よお。相変わらずやる気のねえツラしてんな、真子』


『ほっといてくれや。鬱陶しい小言は惣右介のだけで十分やっちゅーねん…』



いつも聞き慣れた覇気のない声。羅武の冗談に溜め息を吐き出す真子の後ろで、涼しく笑う藍染さんの姿を無理矢理に視界に捕えないようにと必死になっているのはわたしだけ。一体いつまでこんな風に変に意識しているんだろう、つい嘲笑してしまいそうになる。



『おはようございます、愛川隊長』


『よお、藍染。相変わらず真子の嫌味にも動じねぇのはさすがだな』


『慣れてますから。カヤもおはよう』


『おはよう、藍染さん』



最近ではいくらか普通に接することが出来るようになったものの、やっぱり根底にある苦手意識は完全に払拭することは出来ないみたいだ。



『カヤ、おはようさん。何や朝っぱらから眠そうな顔しとんのォ』



気まずい空気の中さりげなく間に割り込んできた真子は、目を丸くする藍染さんを無理矢理自分の背後に追いやると素知らぬ顔でわたしに声をかけてきた。



『寝不足はお肌に悪いで』


『ほっといて』


『えらく不機嫌やな。ま、理由は聞かんでも分かっとるけど』



昨日の夜ろくに寝かせてくれなかったのはどこのどいつだと心の中で思い切り叫んでやった。考えてみれば真子の部屋に出入りするのも最近では当然みたいになってきていた。
人の色恋沙汰にはめっぽう煩いリサには『あんたら、いつ結婚するの』なんて言われる始末で、毎日のようにしつこく付き纏われてあしらうのに苦労している。


とにかく大きな声では言えないけれど、わたしの寝不足の最大の原因はのん気に笑うこの男のせいだ。そんなわたしの気持ちを知ってか知らずか、目の前の真子は冷ややかな視線も簡単に跳ね返してしまうんじゃないかと思うぐらいのとびきり緩い表情で笑っていた。


『この馬鹿真子!』


『痛っ!』



怒りに任せて思い切り踵で足の指を踏んでやった。痛みを堪えて踞る真子を見下ろしていたら幾分かすっきりした。







『おや皆サン、楽しそうッスね』









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