『ローズ、急にどうしたの?』


『うん、実はこれなんだけどね』



眉をひそめるローズの手元を覗き込めば一通の白い封書のようなものが目に入った。一見するだけでは手の中のそれが一体何なのか窺い知ることは出来なかったけれど、目の前のローズを見ていればそれがいい物でないということは大体察しがついた。





『ねぇ、これなに?』


『今朝彼女から…、南師さんから受け取ったものだよ』



促すように差し出された封書を手に取って恐る恐る中身を取り出してみる。たった一枚の紙切れに整然と並ぶ文字は達筆で美しくて、それはまるで彼女自身を表しているような気さえする。けれど文章に目を走らせていくうちに意外なその内容に一瞬言葉を失ってしまった。





『これって…』


『休隊願いだよ』



休隊願い、話には聞いたことがあったけどこれが行使されるのはごく稀なことだ。事実、わたしも実際に目にしたのは初めてだった。
護廷十三隊において自分の意志で隊を離れるにはこの休隊とういう形をとるしかないが、余程のことでもない限りこのような行動に出る者は少ない。それは「護廷十三隊は高尚な組織」「不適合者など出してはならない」そんな四十六室の考えが昔も今もずっと深い所に根付いているからなのかもしれない。





『何で南師さん…、どうしてこんなこと…』


『僕も事情を聞いてみたんだけどね、今回の大会で隊長にも三番隊にも迷惑をかけたからって』


『だけど、そんな理由だけでここまでするなんて思えない』


『今回の南師さんの行動で周囲の風当たりが強くなったのは事実だよ。元々異例の昇進であまり良く思ってなかった人も多かったし』



隊長と言ってもそこまで深く個人の事情に立ち入れないから、そう言って辛そうに苦笑して。ローズもそれ以上は何も言わなかった。




ううん、違う。



そんな理由じゃない。





その場にいた誰もが本当の理由を察しているからこそ、羅武もローズも決して自ら言葉を発しようとはしなかった。







『休隊が長引くとどうなるの?』


『復隊の目処が立たない場合は除籍という形になるらしいよ』



そうなったらきっともう二度と護廷十三隊には戻ってこれない、そんなことはいくらわたしにだって容易に想像がついた。立ち尽くすわたしを心配するようにローズがくい、と覗き込む。





『ごめんね、カヤ。君を困らせることになるって分かってたから、本当は伝えるかどうか迷ったんだけど』


『そんなことないよ。何も知らないまま南師さんがここを出ていくなんてもっと嫌だから』


『カヤならきっとそう言うと思ってたよ』



気付いたら隊首室を飛び出していた。向かう先はどこなのか、自分でもよく分からない。そんなことを冷静に考えるより先に身体が勝手に動いていたのだから。









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