真子の指が顔に触れてゆっくり輪郭に沿うように下りていく。やっと泣いているということに気が付いた時にはもう自分でもどうしようもないぐらい涙が溢れ出していた。泣くなアホ、なんて笑いながら涙を拭ってくれる真子の指はどこまでも優しかった。





『なーんか最近オマエが泣くん、よお見る気がするんやけど気のせいやろか』


『…誰のせいだと思ってんの』


『ま、俺のせいやな』



涙でぐちゃぐちゃになった顔なんて見られたくなくて、とにかく必死にしがみついて顔を埋めた。
真子の髪も声も腕も身体も。嗅覚を擽る甘い香りさえも何もかもを今この瞬間だけは自分のものにしたくてたまらなかった。





『…っ、しんじぃー…』


『お疲れさん、よお頑張ったな』



久々に声をあげて泣いた。それはこの人が優し過ぎるから。ぽっかり空いてしまった心の隙間をいつだって埋めてくれるのがこの人だから。
大人気ないとか真子が見ているのにとかそんなこと考えている余裕もなくて。そんなわたしが落ち着くまで、まるで子供をあやすみたいにずっと真子は背中を擦ってくれていた。











―――‐‐‐











『…ねぇ、そろそろ戻ろうか』


『ええって。あんな面倒なもん他のヤツらに任せといたらええやろ』



思えばわたしがここへ連れてこられてからもう随分と時間が経っている気がする。理由はどうあれ途中で勝手に抜けてきてしまった手前、大会がどうなっているのかも気がかりだった。





『皆の応援しなきゃ』


『まったく真面目チャンやなァ、カヤは。たまには肩の力抜かんと息詰まるで』


『真子が不真面目すぎるだけでしょ』



まだ僅かに鈍い痛みの残る腕を庇いながら腰掛けていたベッドの脇から立ち上がったものの、次の瞬間とん、と肩を押されてバランスを失った身体は再びマットレスの上へと沈んだ。





『ちょっと、何する…』


『もうちょい、ええやろ』


『こんな時にふざけないで』


『ふざけてへんわ。俺は大真面目や』



くい、と口の端を持ち上げて。とても真面目だとは言い難い意地悪な笑みを浮かべた顔がゆっくり近付いてくる。誰もいない病室で外からかすかに聞こえ漏れてくる大会の喧騒を耳にしながら、二人だけしか知らない秘密の時間を共有しているような、そんな危険な気分にさせられる。ふわふわと唇に触れる曖昧な感触が、今はひどくもどかしく思えた。









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