試合の途中で真子に連れ出されたわたしは、四番隊の救護詰所で手当てを受けていた。今でもほんの数分前までの試合の感触が身体にねっとりとまとわりりついているようだった。



『腕の怪我は大したことなさそうですが、手の平のほうは少し傷が深いようですね。暫くは無理は禁物ですよ』



治療を終えた隊士はそう告げて病室を出ていき、その部屋には真子とわたしだけが残された。





『無茶しゃーがって。あんな闇雲に突っ込まんでも、オマエやったら十分勝てたやろ』


『だってあの時はああするしか』


『まったく人の気も知らんと…』



いつもとは違う真子の雰囲気はとても冗談を言えるようなものではなかった。それは怒っているようにも見え、けれどどこかほっとしたような表情にも見えて。見ているわたしの方が息が詰まりそうなぐらい苦しかった。





『心配かけたことは謝るよ。だけどね、』



開け放たれた窓の外をぼんやり眺めていた真子の視線がゆっくりとわたしの元へ戻って来る。柔らかに流れ込む風に乗ってゆらゆらと揺れる金糸の髪は、何度見ても目が眩むほど綺麗だ。





『ルールとかそんなの抜きにしてちゃんと真っ正面から向き合ってみたかった』


『どういう意味や』


『知った風な口利くの好きじゃないけど、でも南師さんの気持ち少し分かる気がする。きっと真子には分からないと思うけど…』



環境も立場も何もかも、互いに違う場所でずっと生きてきた。でもそんなわたしと彼女の唯一の共通点は同じ人を好きになった、ということ。だからこそその気持ちは今回の戦いを通して痛いぐらいに伝わってきた。





『もし二人の立場が逆だったら、わたしも同じことしてたかもしれない』



好きな人が自分を見てくれるのならなりふり構わない、その気持ちが大きければ大きいほど尚更。それが牙となって形に現れるかどうかの違いだけであって、誰もがきっとその可能性を隠し持っている。





『オマエらの立場が逆やったとして』


『うん?』



ふっ、と伏せられた睫毛。その奥から覗く瞳の中心に確かにわたしが映っていた。込み上げてくる想いに胸が押し潰されそうになる。





『それでもきっと俺はカヤを好きになっとった』









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