『そっちが来ないのなら今度はこっちから行くよ』



地面を強く蹴って大きく前へと踏み出し斬魄刀を翳す。相手の出方を見ながら刀を振るうが、今の南師さんにはもうさっきまでのスピードも力も残っていないようだった。ぎりぎりの所でなんとか攻撃を躱し続けるも、もうすでに先は見えていた。足元は場外寸前まで追い込まれ、乱れた呼吸が更に体力を奪っていく。


もう、終わりにしよう。瞬時に体勢を低く身構え、彼女の懐へと潜り込んだ。





『…破道の三十一 赤火砲』


『…!』



頭上から聞こえてきた口上は決して聞き間違えなどではなかった。顔を上げれば放たれた紅い焔が至近距離まで迫っている。間一髪でそれを躱すのと同時に右手に激痛が走った。



『っ…』



生暖かい感触が右手を伝い、ぽたぽたと赤いものが床に滴る。そしてそれと同じものが彼女の刀にも確かに伝っていた。その場にいる誰もが今起こった事実に言葉を失い、静けさだけが辺りを包み込む。傷口に触れた時の痛みが、これが現実なんだと自分に忠告しているようだった。





『その試合そこまでじゃ。ルールを破った者は失格。南師、よもや忘れた訳ではなかろう?勝者…』



毅然とした声で夜一さんが手を掲げわたしの方を指し示す。



『待って下さい、四楓院隊長!』


『何じゃ、小春木』


『わたしなら大丈夫です。試合を続けて下さい』


『気持ちは分かるがの、ルールはルールじゃ』


『こんなの、こんなの納得いきません。どうかお願いします』



身勝手なことを言っているのは重々承知だ。でもどうしても納得出来ない。何を言われてもどこまでだって食い下がるつもりだった。



『じゃがのぉ…』



困ったように流した視線の先には客席の最上段に陣取る山本総隊長の姿。息を呑む皆の視線がそこへ注がれる中、どこか凄みのきいた低音が耳に届く。





『当人がそこまで言うのならば良いではないか、四楓院隊長。但し二度目はないと心しておけ』


『…と、山本総隊長の仰せじゃ。二人共それで良いか?』


『はい、ありがとうございます』
『…はい』





そして試合再開の掛け声が再びかけられた。










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