開始の合図と共に間合いを詰めて飛び込んで来たのは彼女の方からだった。一瞬にして目前に迫る彼女の肩に手を掛けると、ひらりと宙へ身を翻しそれを受け流す。序盤からこちらに攻撃の隙を与えまいと、立て続けに斬り込んでくる刀をただひたすら躱し続けた。



試合開始からどれぐらい時間が経っただろう。何も仕掛けようとしないわたしのせいで試合は硬直状態になっていた。ただ刃と刃が交じり合う金属音だけが響いている。






『やはり逃げることはお得意なんですね』


『余計なお喋りで気を散らしてないで目の前の相手に集中した方がいいんじゃない?』



不本意な闘いであるのに変わりはなかったけれど、安い挑発に乗るつもりは毛頭なかった。
そしてわたしの言葉に苛立ちを隠せない南師さんの刀を振るうスピードがまた更に上がっていく。






『何やねんあのガキ、ただ刀振り回しとるだけやんけ。あんなんでカヤに勝つつもりなんか』


『何見てんねん、ひよ里。実力的にカヤのが上っちゅーことは最初から分かっとることや。問題なんはそこやない』


『…どういう意味やねん、シンジ』


『このまま躱し続けてりゃ負けることはねえ、だけど逆を言えば勝つことも出来ねえ』


『羅武の言う通りや、カヤが仕掛けんかったら試合は一向に動かへん』





ガキンッ、大きな金属音と共に一方が弾き飛ばされ二人の間に距離が出来る。先程までの息をもつかせぬ激しい攻防から一変してしんと静まり返る場内。





『…そんなに怖いですか?平子隊長を奪われるのが……』


『わたしがただ闇雲に逃げてたつもりじゃないってことは、今のあなたが一番よく分かってるんじゃないの?』


『くっ…、』



いくら才能があって昇進のスピードも異例だからと言ってもやはり実際の戦闘経験は浅い。己の体力やペース配分を考えず、個人的な感情だけで突っ込んでくる精神面はまだまだ未熟だ。
大きく身体を揺らしながら肩で息をする彼女の顔が苦しさで歪む。





『心配し過ぎやったみたいやな。カヤは十分落ち着いとるわ』


『ああ、そうだな』









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