沸き起こる歓声とはまるで別世界がそこには広がっている。舞台の中央は異様な空間にさえ思えてとても居心地のいいものとは言えなかった。
恨めしいぐらいに盛り上がる周囲の死神達に人の気も知らないでと叫んでやりたい気持ちにもなったけど、彼らはこっちの事情など全く知らないのだからそれも仕方ないんだと諦めた。





『今度は逃げ出さないんですか?』


『逃げ出す?』



静かに口を開いた彼女の声は歓声に掻き消されてしまいそうな程小さなものだったけど、それでもわたしの耳にはしっかりと届いていた。





『本当は戦うのお嫌いないんでしょう?棄権されるのなら今のうちです』


『話をして分かってもらえるのなら、いくら親善試合でも本当はあなたに刀なんか向けたくない』


『綺麗事ですよ、そんなの。小春木副隊長がどう思おうと、わたしにとってはそんなことどうだっていい。あの人さえ手に入れられれば』



確かに南師さんが言うように綺麗事かもしれない。それでもわたしは少しでも可能性があるのならその綺麗事に賭けてみたかった。
けれどその僅かな可能性すらも全て無駄なことだと、目の前の彼女の表情が物語っているようだった。





『カヤの奴、変に同情して手抜いたりしねえだろうな』


『隊長が信じたらんでどうすんねん。アイツはそない中身の弱いヤツとちゃうわ』


『もちろん信じてるさ。実力だって比べ物にならないしな。俺が言いてえのはもしあいつの優しさにつけこまれでもしたら、この試合もしかしたらもしかするかもしれねえって話だ』



確かにな。今のアイツに唯一落とし穴があるとしたらそこだけや。相手の言葉に流されてまったらそこで終いやで、カヤ。








『良いか?ルールは分かっておると思うが始解も鬼道も使ってはならぬ。もし危険行為だと見なせば即刻隠密機動の連中がお主らを取り押さえることになる。それを肝に命じておくのじゃ』


『はい』
『分かりました』



今回の試合進行を任せられている二番隊隊長の四楓院夜一が、向かい合う二人の間に立ち両者の顔を交互に見ながらゆっくりとした口調で説明を始めた。



『普段刃を交えることなど無い間柄じゃが、お互い思い切り剣を振るうが良い。それでは両者前へ!』



一歩前へと進んだ彼女は鞘から斬魄刀をゆっくりと抜き鈍く光る切っ先をこちらに向ける。それに合わせるように自らも刀を抜いた。
そう、今は戦うだけ。自分に出来ることはただそれだけ。





『始め!!』






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