『カヤ…』


『ちょっとひよ里、何て顔してんの』



いつもなら大声の一つでも張り上げて元気づけてくれるひよ里も、今回ばかりは流石にかける言葉が見付からないみたいだ。人の死覇装をしっかり掴んで離さないくせして、こちらが顔を覗き込めば気まずそうに目を逸らす。





『せや、棄権してまえ!どうだってええやん、こんな大会』


『そういう訳にはいかないよ』



どうあっても結局は自分の手で終わらせなくてはならない。形はどうあれ自分の気持ちを真っ直ぐにぶつけてくる彼女からこれ以上逃げていても何も変わりはしないのだから。…きっとこれがいい機会なのかもしれない。





『それじゃあ、行ってくるね。羅武』


『おう、思いっ切りやってこい』


『ちょ…、待てや!カヤ!!』


『ひよ里、わたしなら平気だから。絶対勝つから応援しててね』





初めて会った時はまさかこんなことになるなんて思いもしなかった。だけどあなたにとってはもう簡単に納得出来るような、そんな問題じゃなくなってるんだよね。



ねえ、南師さん。










『初めてや…』


『どうした?ひよ里』


『あんなカヤ見たの初めてや』


『あいつなりに腹くくってんだろ。大丈夫だ、カヤは強えよ』


『羅武みたァな野蛮なのとカヤを一緒にすんなっ』





真央霊術院の同期やった頃から一緒におったから、カヤんことはウチが一番よお分かってんねん。シンジや羅武なんかよりもずっとや。


あんな顔して心配させんようにしとっても、ホンマはこんな試合望んでへんのはバレバレや。やっぱこんな試合止めさせなアカン。






『黙って見とけ、ひよ里』


『何やねん、シンジ!放せっ!オマエがちゃんとしてへんからこうなんねんぞ!!』


『オマエに言われんでもよお分かっとるわ』



こうなったんはなんもかも俺のせいや。そんなモンいちいちひよ里に言われんでもよお分かっとる。カヤのヤツ、あれで心配かけんようにしとるつもりなんやろうけどこっち見ようともしんかった。



『俺らがどんだけごちゃごちゃ言うたかて、今は黙って見とるしかないやろ。しゃーけど…』


『ウチはこんなん認めへん!』


『暴れんな、アホ』



…ったく冷静なフリっちゅーのもなかなか楽やないなァ。ひよ里に偉そうなこと言うとっても、この中で一番心中穏やかやないのはきっと俺自身や。もしアイツに何かあったら黙って見とれる気が全くせえへんわ。





2010.12.12









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