その日は朝から廷内がいつもと違う雰囲気に包まれていた。どこを歩いていても周囲は異様に騒めき立っていて。規律に縛られ普段は毅然としている死神達が、皆そわそわと落ち着かないように見えた。


それもそのはず、今日はあの護廷十三隊対抗親善試合が開催される、その日なのだから。
隊首会で山本総隊長の口から話があってからというもの、各隊が競うように鍛練に励み死神達の間でも常にその噂で持ちきりになっていた。


出場する者、応援に回る側の者、それぞれが程よい緊張感の中でこれから始まろうとするその大会を今か今かと待ち侘びていた。





そう、きっとわたしただ一人を除いては。






『試合する前から負けそうな勢いだな、カヤ』


『誰のせいだと思ってんの』



恨めしそうに見上げたなら、隣で能天気な声をあげていた大男は頬を掻いて居心地悪そうに肩を竦める。









『ひよ里達も出場するの?』


『アホ言え、そない面倒なモンにウチが出る訳ないやろ。くだらんこと言いよったから、喜助の奴シバいて黙らせたったわ』


『あたしもや。隊長のケツひっぱたいて泣かせたったし』


『白は出たかったのになぁ。拳西にお前は恥だから出るなって言われたー。何でだろ?』


『白、そこはキレてええとこや』





確かにあのひよ里達が、明らかに面倒くさい今回の大会に素直に出場するなんて考えづらかったけど。喜助や京楽隊長の身を案じつつ、ほんの少しだけ彼らを不憫に思った。
結局仲間内で出る羽目になったのはわたしだけ。他の隊を見渡しても、副隊長で出場する者なんて極僅かだ。






渋々とはいえ承諾したことに後悔の念を抱きながらぼんやり眺めるのは、一体いつの間に出現したのか一番隊隊舎前の広大な庭の一角に設置された闘技場。
その舞台の中央で今まさに山本総隊長が開会の辞を述べている真っ最中であり、厳かな空気が辺りを包み込んでいた。





『負けるからね、絶対』


『誰がだよ』


『わたしが、に決まってるでしょ』


『お前が十分強ええのは隊長の俺が一番良く解ってるよ。それに試合は勝ち抜き戦だ。前の四人までで順調に相手五人を潰してくれりゃ、大将のお前のとこまで回って来ねえだろ?』


『そうだけど…』



せっかく文句の一つや二つ言ってやろうと思ったのに。そんな子供みたいに楽しそうな顔されたら何も言えなくなるじゃない。






『お、始まるみたいだぜ』


『本当に知らないから』



すでに舞台の中心に釘付けになっている羅武を一瞬睨み付けて外方を向くと、視界に映り込んできたのはローズの背中。そしてそれを取り囲む三番隊の面々はいかにも気合い十分という表情だ。作戦会議でもしているんだろうか。





『おい、カヤ。余所見してねえで気合い入れろよ』


『いたっ!もー、ちょっと叩かないでよ』





ローズの影に隠れてその円陣の中央に彼女がいたことを、そしてその視線がただ真っ直ぐに自分に注がれていたことを、わたしは気付きもしなかった。





2010.11.13






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