真っ暗な室内を行灯の炎だけがゆらゆらと照らしていた。ぼんやりと浮かび上がる限られた視界の中で、わたしを抱く真子の肩が大きく上下しているのが解る。
無理もない、ついさっきまでお互い必死で繋がり合っていたのだから。



押し寄せてくる睡魔と戦いながら、情事後特有の甘い気怠さと余韻に浸っていた。





『寝てもええで』


『…眠く、ないし』


『強情やなァ』


『ほんとに眠くないんだってば…』



指を髪に通されれば、今まで繋ぎとめてきた意識を簡単に断ち切ってしいそうな酷い眠気に襲われた。





『ったく、そんな半目でよお言うわ。白目むいとるやんけ』


『…うるさい』


『明日からまた書類に追われる日々や。無理すんな』


『解ってるよ…』



解ってるけど。
眠ってしまえばあっという間に翌朝だ。どうせならもう少し、あとほんの少しだけでも真子といられるこの瞬間を大事にしたい、そう思った。





『だったら真子が先に寝てよ』



なんとなく、じっとこちらを見られているのも落ち着かない。





『眠ないねんなァ、これが』


『じゃあこっち、見ないで…』


『そんなん無理じゃ、ボケ』



身体の向きを変えようとけれど、どうやら彼の腕の中から逃れることは不可能みたいだ。
それならばと頭から布団を被ろうとすれば、簡単に引き剥がされた。





『無駄な抵抗すんな』


『だって、』



恥ずかしいから、そんなことを言えるはずもなく。今だに諦め悪く藻掻くわたしを真子はあっさりと腕の中に閉じ込めた。


その間にも重力に逆らうには限界に達してしまったであろう瞼は、すでに下瞼とくっつきそうな程になっている。





『そんなくっついた、ら…暑い……』


『痛っ、オマエどこ蹴ってんねん!愛情確認や、少しは我慢せえ』



さっきも言うたやろ、イチャイチャすんの大事やねんで?
ただでさえ廷内じゃ邪魔されてろくにこんなこと出来へんし。





『しん、じ…』


『何や』


『明日、目が覚めたら…さ、』






ぜーんぶ夢だったりしたら、どうしよ。



大袈裟だと笑いとばされそうだけど。今日一日で一生分の幸せを貰った気がする。真子や、それに皆にも。もしそれが夢だったらと思うと眠るのが怖い。







『いらん心配せんでもええ』





しっかり証拠残したったし。
カヤの身体にたっぷりなァ。





段々と霞んでいく意識の中で、最後の真子の言葉はわたしの耳には届かなかった。






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