『カヤ、お前もう十分休憩したろ。いい加減仕事しろよ』 『これからしようとしてたのにそういう事言われるとやる気が失せるなー』 『口答えはいいから、これ持ってってくれ』 八番隊に届けてくれ、と差し出された一枚の書類を受け取る。 『はーい』 部屋を出る直前にちらりと後ろを振り返ると、憎たらしいぐらいの笑顔で真子がひらひらと手を振っていた。 …むかつくけど。腹が立つけど。でもやっぱり格好いい。 けれどどうしても素直になれない私は、そんな真子からふんっ、と思い切り顔を背けて執務室を後にした。 なんかうまく追い出された気もするんだけど。どこかひっかかる物を感じながら、八番隊隊舎へと向かった。 『可愛くないやっちゃなァ…』 『あいつも素直じゃねぇけど、お前も大概素直じゃねえなぁ?真子』 『何言うてんねん。俺は十分素直や』 自分で言って背筋がむず痒くなってくる。どこが素直やねん。っちゅーか何してんねや、俺。惚れとる女にガキみたいな事しか言えんやなんて、ホンマ情けないわ。 『もたもたしてっと他の男に持ってかれるぜ?本人は自覚ねぇけど、あれで結構いい女だしな』 『分かっとるわ…』 そんなモン、わざわざ言われんでもよお分かっとるっちゅーねん。 『とりあえず戻るわ。また惣右介にどやされたらかなわんしな』 『そうだな。じゃあまた明日な』 『おー。邪魔したなァ』 五番隊隊舎へと続く廊下を歩きながら、ぼんやり頭に浮かぶのはカヤの事。 俺が好きや言うたって、どうせへらへら笑うて「頭おかしくなったの?」とか言うんやろ。分かっとんねん、オマエの考えそうな事やで。 あー、何や腹立ってきたわ…。 見とけよ、カヤ。そのうち俺しか見えんようにしたるわ。そんであの減らず口が聞けへんぐらい惚れさせたる。 『顔、怖いですよ。平子隊長』 いつも聞き慣れたわずらわしい声に顔を上げると、これまた飽きる程見慣れた鬱陶しい顔がそこにはあった。 『何やねん、惣右介。何でここにおんねん…』 『それを言いたいのは僕の方です。早く隊舎に戻って下さい』 誰かさんがさぼるせいで、残っている仕事は山程あるんですから。 どこか刺を含んだ言い回しをしながらも、終始穏やかな笑顔。 コイツの何考えとるのかよお分からんとこ苦手やねん…。 『隊長の世話を焼かないといけない僕の身にもなって下さい』 『あー分かった分かった。戻るでェ、惣右介』 『はい』 明日まで残業させられたらかなわんからなァ。 2010.01.11 ← | → しおり |