『平子隊長、あれ買ってや』


『アホか。オマエに出す金なんか一円も持ち合わせとらんわ』


『カヤちゃんには買うてあげとったやんかー』


『目ざといやっちゃな…。カヤとオマエを一緒にすな』



きょろきょろと辺りを見渡してはしゃぐギンは、まるで本当に父親に玩具をねだる子供みたいだ。





『せやったらあれ買うてや』


『アカン』


『ほんならあれ欲しい』


『アカンちゅーてるやろ』


『何やねん、ケチ』



口を尖らせて拗ねていたギンが、何やら名案を思い付いたようで途端に表情が妖しく輝きだした。





『交換条件ならええやろ?』


『交換条件やと?オマエはまたしょーもないこと考えとるやろ』



ぐいっ、と浴衣を引っ張ると真子の耳元でこそこそと何かを囁いている。わたしに聞かれたらまずい話だとでもいうのか。





『…ま、しゃーないな。一個だけ好きなモン選び』


『さすが平子隊長や。話が早いわ』


『ちょっと、交換条件てなに?』


『オマエは気にすんな』



そう言われても隠されたらますます知りたくなるのが人の心理というもので。
さっきまで頑なだった真子の態度がいきなり変わるなんてきっと余程のことだ。





『ギン、真子に何て言ったの?』


『あんな、カヤちゃんのスリーサイ…』
『あああああっ!ギン、余計なこと言うなっ!!』


『何なの、一体。訳解んない』



ギンの口を抑えてあからさまに慌てる態度に疑念の視線を向ければ、寸前のところで上手く躱されてしまった。





『そ、それよりアレや。ギン、オマエ一人でここ来たんか?』


『ボクだけとちゃうよ。みーんなと一緒に来たんや』


『皆?』



ギンの指差す先は人混みのずっと奥。行き交う人々の間から一瞬垣間見えたのは、よく見知った顔ばかり。








『ひよ里っ、羅武!それに皆も』






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