自分の気持ちは絶対にばれていないと思っていたけれど。ひよ里には全部お見通しだったみたいだ。





『ただいまー』



再び執務室に戻ると、羅武の元を訪れていた一人の男の後ろ姿があった。





『やっとお帰りか。羅武から聞いたで?サボりやなんてええご身分やなァ、カヤ』



これでもかという程さらさらの髪を揺らしながら、嫌味な程の笑顔で振り返る。





『真子だってサボりに来てるんでしょ。人の事言えるの?』



ほらね。好きな相手にさらっとこんな台詞を吐いてしまいあたり、本当に私って素直じゃない。こんな私が貴方の事好きよ、なんて言ったらどうなるか。「明日世界が滅びるんとちゃうかァ?」とか言われかねない。





『相変わらず口の減らんやっちゃな…』



図星をつかれて心底居心地悪そうに頭を掻いた。





『そういや、オマエも来るんやろ?明日』



もう話題が変わってるし。痛い所をつかれた時のこの人の切り替えしの速さは、本当にいつも驚かされる。



『明日?』


『あー、それまだこいつには話してなかったんだ』


思い出した様に羅武が口を挟む。



『ねぇ、明日何かあるの?』


『大した事じゃねぇんだけどよ。たまには身内だけで騒ごうっつー話になってな』



『酒飲むんに男だけじゃむさっ苦しいやろ?』


『へぇー、なんか面白そう。ひよ里やリサ達も来るんでしょ?』



考えてみれば最近は皆忙しくてそんな事する暇もなかった。それに真子が来るなら行ってみたいかも。





『ホンマはもっとべっぴんさんに相手して欲しいとこやねんけどなァ。ま、カヤで我慢しといたるわ』


『私だってどうせならもっと素敵な人と飲みたいし』



『言うてくれるやんけ。こないええ男が目に入らんやなんて、オマエの目は節穴やな』


『え?いい男なんてどこにいるの?』


『いちいちムカつくヤツやな…』





結局真子とのやりとりはいつもこんな感じで。私の気持ちになんか気付いているはずもないんだ。
だからこそ、もしかしたらなんていう僅かな希望は少しも抱いた事はない。





『あー、もううるせぇな。痴話喧嘩なら他所でやってくれ』


突如割り込んできた声に我に返ると、羅武がうんざりした表情で耳を塞いでいた。





『何で俺がコイツと…』
『何で私が真子なんかと…』


『息ぴったりじゃねぇか』



やっぱ痴話喧嘩だろ。からかうようににたりと笑う。





『もう…!冗談言わないでよ』


『それはこっちのセリフや』



段々と加速していく拍動を必死で抑えながら、目の前にいる真子と視線を合わせる事が出来なかった。






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