鬼が豆鉄砲を喰らう



「こちら七番隊門脇、まだ星は見つかりません!」
「同じく七番隊寺島、こっちも見つかりません!!」


ファミレスの自動ドアを出るなり、真選組連中が目の前を走りながら無線機に向かって何かを話していた。あちらこちらに見える真選組の黒服。これはただ事じゃないんだろうな、と街に散らばる黒を見て思った。
そう言えば以前お姫様が城下に逃げたとかでもこんだけ大騒ぎしてなかったけ?と走り狂う隊士たちを横目に歩く。

すると、一人の隊士と目が合った。


「……あっ!!!!」

「へ?」

「発見発見はっけぇぇぇぇぇぇえん!!!!」


訳がわからない。
分からないが何やらその隊士は自分を指差して叫んでいる。いや、無線機に叫んでいる。
その姿に、まさか…と思った時だった。
遠くの方からダダダダダダ!!!と地鳴りの様な物凄い音を立てて走ってくる人影を捉えた。


「こ……ンの馬鹿がぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

「?!」


まさか…と思った事はどうやら当たってしまったようだ。
遥か彼方から鬼のような形相をして走ってきたのは土方で、その恐ろしすぎる顔にまゆは思わず目を見開いてしまった。


「お前っ!今まで何処に行ってやがった!!」

「…は?」

「昨日っ!お前に連絡しても電話は繋がらねーわ、家に行ってもいねーわで俺がどれだけ心配したと!!!」

「は?昨日?」

「そうだ!!」

「…へー…昨日…」


目の前までやってきた土方はその恐ろしい形相のまま、まゆを怒鳴りつける。けれどもそれにまゆは平然とした顔を向けると、やけに「昨日」を強調した。


「十四郎くん」

「あ゛ぁ?!」

「私ね、一ヶ月も前に引っ越してんだよ」

「…………へ?引越し?」


鬼の形相が一瞬にしてアホ面になる。
面白い顔だな。鳩が豆鉄砲食らったような…いや、鬼が豆鉄砲食らったのか。


「そう、一ヶ月前に。んで同じく一ヶ月前に携帯も解約して新しいのにしたの」

「………え?…は?え?」

「もう一ヶ月も前の事なんだけど。そうか、昨日気がついたのか、そうかそうか」


一ヶ月と昨日を強調してきてはいるが、別に彼女の口調は怒っているモノとかではなく、何やら観察でもするような口調だ。
それに土方がダラダラと冷や汗を掻く。

え?一ヶ月も前に引越し?ってか携帯も解約?え?なにそれ。どういう事?そ、そりゃ忙しくて中々連絡してなかった俺も俺だが…なんだってこいつはその事を俺に一言も…俺はお前の彼氏だろ?!

一ヶ月も連絡をしなくて悪かった、と思った罪悪感が彼女への不満へと変わる。

人が散々心配して、もしかしたら誘拐でもされたかと思って隊士たち使って探させていたというのに…。嫌味か?!嫌味なのか?!一ヶ月も放って置いた俺への嫌味なのか?!

此処は彼女を責めるべきか、それとも一応謝っておくべきか、そう判断を決めかねていると、目の前で悪びれた様子もないまゆが「じゃ、私行くね。さよなら」と髪をなびかせた。

いやいやいや、行くね、じゃねーよ。




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