『お前からそんな言葉が出るとは意外だな』



しみじみ、と言った感じで摩由が言う

何が意外だと言うのだろうか?

土方のその怪訝そうな顔に摩由は筆を止めると新しい煙草に火をつけた



『お前はこの職業で、家庭を持つ事を考えているか?』



「あ?別に考えちゃいねェよ?何時死ぬか分かんねェのに」



『だろ?ソレは私だって同じだ、まして私は暗殺部隊最高指揮官、今はこんな平和ボケした真撰組にいるが、任務が終われば暗殺部隊に戻るだろう、そんな女が子を拵えるとおもうか?』


「・・・アンタならしねェだろうな」



『分かってるじゃないか、それに前にも言ったが、私は大切な物が出来ると言う事は足枷になると思っている、だからそんな物作るつもりも無い』




ぴしゃりと断言される

確かに以前彼女のそんな事を言っていた

それが間違いだとはおもわねェ

現に俺だって特定の女をつくらねェのはそう言う考えを持ってるからだ

別に足枷になるとかじゃねェけど、万が一、そういう大切な奴が出来てそいつらを残して死んじまった時の事を考えると・・・




「残される方は堪ったもんじゃねェもんな・・・」





ぼそりと独り言のように呟いた言葉に摩由の目が鋭く光った




『残される方?』




やけに冷たい言葉の言い方
そして少しだが、彼女から何とも言えないオーラ的な威圧感を感じた



『残される方の心配なんかしてるのか、土方』



「あ?そりゃ、まァ」


『愚かだな、そしてくだらない』


「あぁ?!」


『何事にも囚われるな、何物にも心を奪われるな、己の道を信じ、それだけを貫け』


「・・・・・・・」


『残される者、殺される者の心情なんか一々気にしていたら私たちは前に進めない、私たちは前に進まなきゃならない、それが生きている者を殺すと言う事だ・・・・残される物が可哀そうだなんて、そんな生易しい事を言って良い身分じゃない』




"強い"と思った
そう言っている彼女の姿が揺るぎ無い物で土方は純粋に強い、と思った



きっと沢山の者を殺してきたのだろう
その中で彼女は自分の武士道と言う名の筋を見つけたのだろう



一本筋が通っている



己の背筋もピンと伸びそうなほどの彼女の雰囲気に土方は身も心も少し引き締まる感じがした






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