▼たったそれだけのこと(閻→鬼)
私、好きな人がいたんだ。
いや、今も好きだよ。
ずっと、ずーっと引きずってるんだ。
びっくりした?
まさか、閻魔大王が昔の恋をネチネチと引きずっているだなんて、思いもしないだろうね。
そもそも、色々恐ろしい噂が話されているから恋をするなんて時点で驚くかな。
私と彼はずっと一緒だった。
…いや、私も彼も男だよ。まあ、ここは黙って聞いてよ。
彼は私にタメ口きいたり、ちょーっと休憩してたら爪で容赦なくさしてきたり……。サボリ?そ、そんな事はないさ。
…あれ?私ってこの子の上司だよね?
そんな風に思う時もあるけど、真面目で、仕事もきっちりできて、気もきいて。
凶暴だけど、優しくて、私のことを思いやってくれて、私のために泣いてくれて。
もろくて、傷付きやすくて。
そのくせ、私に傷を隠そうとするんだ。
彼はもう、ここにはいないよ。
そろそろ『向こう』では高校に入学するくらいの年頃かな?
結構モテてるみたいだよ。
鬼男くんのクセにバレンタインにチョコレートをもらったり。
俺は誰からももらってない…くそ…。
でも、鬼男くんからはもらってたよ。
あの子ってば器用でさ、すごく美味しいのを毎年作ってくれたんだ。
「あんたが毎年落ち込んで鬱陶しいから、仕方なく作ってんです。」なんて言っちゃってさ。
素直じゃないよね。
そこがたまらないんだけど。
ああ、ごめんごめん。話がそれてしまったね。
いや、想いを伝えたわけじゃないんだ。
…どうして君が残念そうな顔をするんだい?
私は言わなかった。
いや、言えなかった。
私や彼の立場やら、性別やら、そんな難しい理由じゃない。
それ以前の問題だったんだ。
ただ、私が、彼の事が好きだという事実を認めたくなかっただけなんだ。
認めてしまったら、彼へ想いをぶつけてしまう。
返事がどうであれ、いつしか崩れる絆を、作りたくなかったんだ。
いや、違うそれならもうできていたのだろうか。
行動もしないで、今更になってこんな風にグチグチネチネチ。
大層なことを言ってるけどさ、要は彼の言う通り、俺はただの腰抜けだったんだ。
彼がいなくなってから、俺がどれだけ愚かなことをしたのか。
どれだけ彼を愛していたのか。
今更、だよ。
今更になって認めたんだ。
もう全てが遅い。
そう、勇気がなかったんだ。
たったそれだけのことなのさ。
(20110126)
ネチネチグチグチネバネバキザ納豆閻魔。
日記から持ってきました。
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